群馬県の防災ヘリコプターが山林に墜落した事故で、県防災航空隊の岡朗大(あきひろ)さん(38)=前橋市=が命を落とした。地元を愛し、大好きなスキーを子どもたちに教えていた。慕った知人らは、悲しみに暮れた。
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知人らによると、岡さんは幼少期に草津町でスキーを始め、小学生では県で一、二を争う実力だった。草津中学校からスキー推薦で青森県の東奥義塾高校に進学し、近畿大学を卒業。東京での会社勤めを経て、十数年前に吾妻広域消防本部に入り、地元に帰ってきたという。
幼い頃に父親を亡くし、一人っ子の母子家庭で育った。消防に入った理由について「1人でいる母親に孝行がしたくて帰ってきた。どうせ戻るなら地元の方の役に立ちたい」と同級生に明かしていた。「危険な現場の住民を救う中で救助技術を磨き、隊員にも伝えたい」と県防災航空隊への派遣を志願。任期は来年3月までだった。
かつて所属した草津スキースポーツ少年団の小中学生たちを指導していた。泊まり勤務明けや非番の日に駆けつけた。岡さんが通った草津中学のスキー部顧問だった宮下昌之さん(62)によると、技術だけでなく、精神面でも強くなるよう子どもたちに説いていた。「スタート台に立ったら行くしかない。練習のすべりを100%出せばいいんだよ」。大会前日は、緊張する子どもたちにそう声をかけていたという。
岡さんが5年前に挙げた結婚式には、同級生や全国のスキー仲間らが多く出席。式の最後、岡さんは母親に「やりたいことをやらせてくれて、本当にありがとう」と涙を流して伝え、花束を渡していた。
幼い長男と長女を可愛がる父親でもあった。宮下さんは「我が子に大好きなスキーを教えようと楽しみにしていたに違いない。これからの幸せがたくさんあったはずなのに」と言葉を詰まらせた。
岡さんが3歳のころから知っているという草津スキークラブの山口芳雄会長(60)は「本当に立派になって帰ってきてくれた大切な人だった」と話す。
4年ほど前、山口さんが自宅の階段で転び、流血したことがあった。その時に搬送してくれた消防隊員の中に、岡さんの姿があった。後日「ありがとう、恥ずかしいことしたな」と伝えると「全然気にしないでください」と笑顔で返してくれた。「スキーで成長し、故郷に戻り、スキーの楽しさを子どもたちに教え、地域に貢献してくれた。町が目指す目標を象徴したような人だった。本当に惜しい人を失ってしまった」(高島曜介)