2014年8月20日未明に起き、77人が犠牲になった広島土砂災害。かつての被災地は今年7月、西日本を襲った豪雨に再び見舞われた。だが当時の教訓を生かして独自の「備え」を進めていた地域がある。 戸建て住宅が並ぶ広島市安佐北区可部(かべ)東の「新建(しんだて)団地」。7月6日午後5時半ごろ、小笠原正信さん(65)は自治会のホームページで雨量グラフを見て驚いた。団地内で降っているのは10分間10ミリの雨。自宅前の川を見ると、濁った水が激しく流れ込んでいる。 「同じだ……」 脳裏をよぎったのは4年前の広島土砂災害の記憶。190世帯が暮らすこの団地では3人が死亡し、小笠原さん宅も全壊した。 「このままでは危ない」。妻(64)と長女(28)を連れ、車で10分ほどの長男宅に避難したのは午後6時ごろ。団地がある地区に避難指示が出る1時間半前だった。7月6日の安佐北区の24時間降水量は「あの日」の224・0ミリには及ばないものの、173・5ミリを記録。だが新建団地で人的被害はなかった。翌7日朝、自宅近くの坂は側溝からあふれた水で川のようになっていた。「暗くなってから避難していたらけがをしたかも。早めに避難できてよかった」 小笠原さんら住民が判断の目安にした自治会のホームページには、独自に作成した自主防災システムが組み込まれている。 4年前、自治会は電話連絡網を使って避難の呼びかけなどを試みたが、停電や浸水でつながらないケースが続発。「教訓を生かし、二度と繰り返さない」と住民のシステムエンジニア、森次(もりつぎ)茂広さん(53)が仕事の合間を縫って開発した。 15年6月に雨量計を設置し、自治会のホームページで10分ごとの雨量を常時確認できるように。10分間10ミリか1時間で40ミリを超えると、避難を呼びかけるメールも自動で送信される。 安否確認システムも開発。住民ごとに識別するQRコード付きのカードを配布し、簡単に安否や位置情報を入力できるようにした。素早い救助につなげるためだ。いずれも住民は無料で利用でき、メールは団地の6割超の120世帯、安否確認システムは全世帯が登録している。 こうした取り組みは注目を集め、大阪北部地震後には兵庫県の自治会からも問い合わせがあった。森次さんは「災害時に多くの情報を共有し、助け合えるよう改良したい」。土砂災害4年を前に、19日に団地全体でシステムを使った防災訓練をする予定だ。 「防災力は地域力」 4年前、10人が犠牲になった広島市安佐南区の八木ケ丘町内会(約70世帯)でも、取り組みが進む。 警報付きの雨量計を独自に2カ所設置。1時間の降水量が10ミリを超すとランプが点灯し、30ミリを超すとサイレンが鳴る。また避難に時間がかかる高齢者のため、町内の高層マンションの共有スペースを一時退避所にする協定もマンションの管理組合と結んだ。 中心となったのは、町内会元副会長の山根健治さん(72)。4年前に備えの大切さを痛感し、直後に町内会が設けた「防災担当」に就任。意識したのは、地域のつながりの強化だ。 15年には、住民らと3カ月余りをかけて町内を点検し、地域の防災マップを作製。防災意識を底上げすることが狙いの一つだった。 「側溝に蓋(ふた)無し!」「水路、あふれる危険」。マップには危険性を具体的に記述し、全世帯に配布した。西日本豪雨でも、一人暮らしの高齢者らを役員らが訪ねて早期避難を促し、人的被害はゼロだった。 山根さんは、「いざという時に助け合える地域の結びつきができた」と語る。「行政任せではいけない。防災力は地域力だ」(高橋俊成、大滝哲彰) ◇ 〈広島土砂災害〉2014年8月20日未明、広島市安佐南区と安佐北区付近で積乱雲が連なる「線状降水帯」が発生。1時間100ミリ前後の雨により土石流やがけ崩れが起き、災害関連死を含め77人が死亡。全壊179棟など住宅被害は計4749棟にのぼった。 |
4年前の教訓、防災力高める 広島土砂災害の被災地
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