経団連はブラジル全国工業連盟とともに、日本とブラジルなど南米南部共同市場(メルコスール)の4カ国との経済連携協定(EPA)を結ぶよう各国政府に求める報告書をまとめました。その狙いは。経団連副会長の飯島彰己(まさみ)・三井物産会長(67)に聞きました。
――ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイとのEPAにどんな意義がありますか。
「ブラジルのGDPは世界8位で、4カ国には日本企業約620社が進出している。ただ、メルコスールからの輸入額は日本全体の1・2%。一方、日本からの輸入額はメルコスール全体の2・2%にとどまっている。日本とメルコスールの貿易量はまだ小さく、伸びる余地がある」
「メルコスールは韓国やEUと交渉に入っている。中国の存在感も高まっていて、日本が乗り遅れてはいけない。11月にアルゼンチンで主要20カ国・地域(G20)首脳会議がある。関係国の首脳が話し合い、交渉に向けたキックオフになることを期待している」
――日本の利点は。
「日本の輸出の中心は自動車。ブラジルでみると、完成車には35%、部品にも関税がかかっている。これが大きく下がる。4カ国の主要産品としては鉄鉱石のほかコーヒーやオレンジジュースなどがある。モノの輸出入以外にも、電子商取引やデータの移動、紛争解決に関するルールなど他の協定に比べても遜色のない質の高いものをめざしたい」
――このEPAは経済界がリードしていますね。
「経団連とブラジル全国工業連盟は1974年から会合を重ねてきた。15年にブラジルとEPA締結をめざす報告書をまとめたが、昨年の会議からEPAの対象範囲をメルコスールという形に広げた。日本の成長のためには世界の活力を取り込む必要があり、南米も欠かせない。その点でメルコスールの重要性は日本とブラジル双方の共通認識だった」
――三井物産はブラジルと縁が深いですね。
「投融資の金額では米国、豪州に次ぐ3番目。鉄鉱石の採掘やインフラ開発を中心に事業を進めてきた。個人的にも思い出深い地で、商社マンとして初めて行ったのが1982年。発電事業などに携わった。航空機大手エンブラエルなど機械工業の水準も高く、魅力的な国だ。特に190万人の日系人がいる。親日で日本企業が活躍しやすい環境であり、経済、文化の両面でも交流を深めたい」(聞き手・加藤裕則)
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いいじま・まさみ 1950年生まれ。神奈川県出身。横浜国大卒。74年に三井物産に入り、製鋼原料部長、金属総括部長などを歴任。2006年に執行役員になり、09年4月に社長に。15年4月から会長。15年6月から経団連副会長を務めており、経団連の日本ブラジル経済委員会委員長でもある。