地方の親から都市の子への相続で、地域金融機関の預金が都市部の大手銀行などへ流出する懸念が強まっている。人口減で地域金融機関からの預金流出が続けば、預金を元手にお金を貸し、地域経済を回す力が落ちかねない。地方銀行は信託銀行と連携するなどして顧客を囲い込み、相続に伴う預金流出を防ごうとしている。
三井住友信託銀行によると、今後20~25年で全国から東京都と埼玉、千葉、神奈川県に計54・8兆円の家計金融資産が流入するという。地方からは流出となるなか、地域金融機関が力を入れるのが「信託」だ。
山陰合同銀行(松江市)は7月から、みずほ信託銀行が地銀向けにつくった信託商品の取り扱いを始めた。高齢の人らが自分の財産をあらかじめ信託しておき、死後に相続人らに葬儀費用や生活費をスムーズに渡せるようにする商品だ。財産の管理は信託銀行が行う。
一般に、信託業の免許がない地方銀行は、信託代理店として信託銀行の商品を取り扱う。信託銀行に顧客を紹介することで手数料が入るが、信託された預金は信託銀行に移り、その後の相続で都市部に住む子らの大手銀などの口座に流出する可能性がある。
みずほ信託はこうした預金流出をできるだけ防ぐ仕組みをつくった。地方銀行が顧客に信託商品を売ると、みずほ信託に顧客の預金が移るが、みずほ信託は同額のお金を地銀に預けて運用してもらう。
さらに、顧客の相続人には地銀に口座を開いてもらう。顧客の死後には相続人の口座へ信託されたお金を移す。地銀には相続後もお金がとどまる。
みずほ信託によると、山陰合同のほか、地銀7行が同様の信託ビジネスを展開し、十数行が採用を検討しているという。山陰合同の担当者は「預金の流出を防ぎながら、親から子へと息の長い取引ができる」という。
信託銀行との連携にとどまらず、自ら人材を育成するなどして体制を整え、金融庁から銀行と信託業務の兼営認可をとる動きも出てきた。信託商品を自ら売り、預金流出も防ぐことができる。
昨年、南都銀行(奈良市)が地銀として約10年ぶりに信託業務を開始し、今年はきらぼし銀行(東京)、京都銀行が相次いで認可を得た。鹿児島銀行も年内に認可を受ける見通しだ。南都の担当者は預金の囲い込みに加え、「顔の見える地場の地銀に相続の面倒を見てもらいたいというニーズは強い」と言う。
信用金庫の中央機関の信金中央金庫は2016年に兼営認可を取得。今年3月末時点で全体の半分超の約140信金が代理店になった。信金の顧客に信託商品を売り、財産はできるだけ信金にとどめてもらい、「業界として囲い込む」(信金中金の担当者)狙いがある。「全国津々浦々の店舗網を生かし、大手信託銀行がカバーしきれない地方に信託サービスを浸透させたい」(同)という。(榊原謙)