「人がデータとして生活し、評価され、処遇されることが当たり前になる社会」。グーグル、アップルなどの巨大IT企業による個人情報の独占が進み、人工知能(AI)によるデータ分析が進化すればするほど、人間は「データの集合体」として認識されるようになると、生貝直人・東洋大准教授は指摘する。「人は自由かつ権利において平等なものとして生まれ、また、存在する」と掲げた1789年のフランス人権宣言から200年余を経た今年5月、21世紀の「人権宣言」が欧州連合(EU)で施行されたという。なぜ今、「人権」なのか。生貝さんに聞いた。
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――巨大IT企業に対して個人情報の保護強化を求めるEUのGDPR(一般データ保護規則)が、デジタル時代の「人権宣言」と言われています。
「国境を超える巨大IT企業、特にグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4強は頭文字からGAFA(ガーファ)と呼ばれ、生活のインフラそのもの。私たちはこうした企業に個人情報を提供する見返りに、検索やメール、スマホのアプリなどの便利なサービスを享受しています。安心して個人情報を企業に渡し、便利なサービスを享受するためにこそ、個人情報の取り扱いを規制しなければならない。規制にあたってGDPRが中心においた理念が人権です」
――「人権」ですか。大げさで古めかしく聞こえますが。
「情報化が進み、膨大な情報を分析する人工知能(AI)の進化が進むほど、『人=データの集合体』と認識されます。人が『データとしての自己』として扱われるからこそ、データに対する個人の権利が重要になるわけです」
――私もグーグルに約20ギガバイト(GB)、フェイスブックに約1GBのデータを預けています。アップルやアマゾンにも購買履歴があります。
「メール、SNSにアップした経歴や写真、位置情報、ネット経由の商品購入や決済の履歴……。巨大IT企業は膨大な個人情報を分析して人の好みや次の行動を予測し、的確な商品やサービスを薦めてきます。これからはネットやスマホを使わない人も避けられなくなります。今後はあらゆる機器をインターネットにつないで情報をやりとりするIoTの技術が広がり、家電や車の利用など日常生活の様々な行動が全てデータ化されますからね」
――利用者は、便利なサービス目当てで自ら個人情報を提供しているのでは?
「分析される個人情報の範囲が広がり、支払い能力などの信用評価や保険料の算定、就職など個人の社会生活の重要な部分まで評価や予測の対象になろうとしています。差別や社会的排除が起きる可能性があり、現に米国では刑務所が再び罪を犯しそうな囚人を人種や性別、出身地などで選別したり、外国政府の関与によって個人情報に基づく効率的な広告表示が選挙期間中に集中投下されて民主主義の正統性が揺らいだりする事態も起きています。中国では既に個人の格付けが進んでいて、一度信用を失った人が回復の機会を失う『バーチャルスラム』化が懸念されているほどですよ」
――今年はフェイスブックから不正流出した個人情報最大約8700万人分を選挙対策に用いた英ケンブリッジ・アナリティカ社の問題がありました。
「大量に集積された個人情報の悪用が、一人一人のプライバシーのみならず、自由や平等、そして民主主義のあり方にすら甚大な影響を与えるようになる中、巨大IT企業に求められる社会的責任はより高まっていくでしょう」
――遺伝情報と毎日の食生活か…