愛知県豊田市足助町の「古い町並み」にある「旧田口(たぐち)家住宅」で、茶つぼに入った100年以上前のものとみられる茶葉が見つかった。管理している田口敏男さん(71)=足助観光協会長=が検査機関を通じて調べると、飲んでも問題がないとわかり、試飲会も開いた。「評判が良かった」として、関心がある人に味見を勧めている。
同住宅は180年以上前の江戸時代に建てられた商家で3年前、田口さんが土地ごと市に寄贈した。市文化財課が調べると、土蔵から見つけた茶つぼのうち1本に茶葉が入っていた。高さ約80センチ、胴回りの直径は約50センチで、木の板でふたがしてあった。つぼの側面に、作られたとみられる「元治元年甲子」(1864年)、田口家が譲り受けた年とみられる「明治十五年」(1882年)と記されていた。
明治時代にお茶屋だった田口家は、大正時代に茶葉の販売をやめ、金物や石油を扱う雑貨店に商売替えをしていた。見つかった茶葉は、お茶屋当時のものが残っていたとみられる。
田口さんは、後に父親(故人)から家業(ガソリン販売)を譲り受けたが、実家に茶葉の入ったつぼが残されていたことは聞かされていなかった。同住宅の敷地面積は800平方メートルで、土蔵・倉庫だけで4棟あり、茶つぼがあった土蔵2階には足を踏み入れたことすらなかったという。「明治時代に茶葉を保管していた茶つぼが一つ残っていたのを、先祖が忘れていたのではないか」と推測する。
同課によると、茶つぼの内側には釉薬(ゆうやく)が塗られ、外側には和紙を重ねて貼り、上から柿渋が塗られていた。学芸員は「当時の茶つぼの作り方通りで、防虫、防湿の効果がある」と説明する。
田口さんは7月、茶葉を民間の検査機関で調べてもらった。ヒ素や鉛などの有害物質は検出されず、食品衛生法に基づく規格基準も満たしていた。そこで8月、観光協会職員や市職員らを集めて試飲会をしたところ、評判が良く、「(昔、足助で広く作られていた)寒茶独特の甘みがある」という声が上がった。記者が飲んでみたところ、香りはないものの、味は普通のお茶と遜色がなかった。
公益社団法人・日本茶業中央会(東京)によると、飲める状態の古い茶葉が発見されたという記録は残っていないという。「保存状態がよほど良かったと思われる。ただ、お茶としての品質は落ちているのではないか」
茶つぼにはまだ茶葉が4分の3以上残っている。田口さんは「100年以上前のお茶を味わえる機会は貴重。イベントなどに出すつもりはないが、もし関心がある人がいれば1杯差し上げたい」と話している。問い合わせは足助観光協会(0565・62・1272)へ。(臼井昭仁)