父親として出産準備や家事、育児に悩む3人の記者の経験を6月、生活面に3回掲載したところ、夫への怒りや諦めをつづった反響が寄せられました。中には「離婚を告げた」「『ワンオペ』という文字だけで涙が出る」といった悲しみに満ちた声も。家事や育児の分担でモヤモヤを抱える妻の本音を記者が夫にぶつけてみたところ、見えてきたものは?
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「手伝い気分抜けてない」
「家事、育児は目に見えて分けられるものばかりではありません」。兵庫県に住む教員の女性(55)からそんな感想が届きました。妻とのいさかいに悩む記者の記事にあった「家事や育児はきちんと分担している」というくだりが引っかかり、同じく教員の夫(60)の言い分を聞いているように感じたそうです。詳しく話を聞こうと女性を訪ねました。
夫と長女(28)、長男(24)の4人家族。夫は長男が生まれた際、育休を3カ月取得しました。当時は、1995年。周りに育休を取る男性はほとんどいませんでした。以来、食事の片付け、毎日の洗濯、風呂洗いは夫の担当に。「良き夫」「幸せな妻」と言われるようになりました。
ところが、「見えない家事」は事情が違います。共働き、しかも同じ教員なのに、女性が担っていて、夫はその格差に気づかずにいるといいます。「例えば、夫の『洗濯』に週末のベッドのシーツは含まれません。衣替えの準備をするのも私。いつやるかを考えて、クローゼットから出して洗濯――。私がやっていることを夫は認識していません。それで『半々』とされるのは、違うんやないかって」
入れ替わりで取材に応じてくれた夫に女性の思いをぶつけてみると、普段、家事分担について面と向かって話すことはないそうで、苦笑いしながら「見えないもの、気づいていないものが、ほかにもあるのかもしれませんね。『半々』と思いながら、できていないかも」。
そんな夫の反応を女性に伝えると、「さらに」と話が続きました。雨が降るか微妙な天気の朝、夫は「外に干せるかな?」。女性は思わず「自分で調べて考えれば」と返したそうです。「学校の遠足の時に天気が微妙だったら中止にするかどうか、自分で責任を持って決めるはず。それが家事ではできないというのがイラッとするんです」。夫は「手伝い」の気持ちが抜けていないのではないか。意識のズレを感じ、納得できないでいます。
とはいうものの、夫には感謝しています。世間を見渡せば、夫は家事、育児に協力的だと感じます。長女にはこうも伝えています。「これが『普通』だと思っていると、将来苦労するよ」(有近隆史)
「自己満イクメン」にいら立つ妻
「出産後、夫への愛情はガクッと下がる」「一部のグループは愛情が回復する」。15年ほど前、そんな「女性の愛情曲線」について調べました。その後、テレビ番組で「産後クライシス(危機)」として取りあげられ、また公的機関のパンフレットなどでも紹介され、注目度が高まりました。
家事や育児負担については、「マタニティーブルー」「産後うつ」など、それまでも妻側の状態に着目した言葉はありました。ただ、愛情曲線は、出産後の家事や育児など負担のアンバランスが、妻の夫に対する愛情に影響を及ぼしていることを明らかにし、「孤育て」に追い込まれていくプロセスを、妻側の問題ではなく、夫婦の関係性から捉え直した点で注目されたのだと考えます。
妻の愛情が回復する夫婦は、共通の趣味があったり、余生について話し合ったりしていました。同時に、夫は、子どもとの結びつきが強かった。「夫婦げんかをしたら中学生の娘が父親の味方をしてたしなめられた」。そんなケースもありました。つまり、妻と子、双方と良好な関係を築いていたのです。
では、どう接したらよいか。ケース・バイ・ケースですが、「忍耐強く相手の言葉に耳を傾ける」「失敗を繰り返さない」「相手を励まし、応援する」などが、回復グループの夫に共通の傾向でした。
調査から15年ほど経ち、「イクメン」という言葉はスタンダードになりましたが、「自己満イクメン」も目立ちます。「おむつ替えはするけど、うんち(特に下痢)はNG」「子どもの身長と体重、靴のサイズがパッと出てこない」など。こうした夫が、かえって妻をいら立たせています。2回の育休を取得し、家事と育児分担を続ける私自身、「乳幼児の世話はこんなにも大変だったのか」と、「愛情曲線」を調べた当初の認識が甘かったと感じる日々です。
一方、「イクメン」がスタンダードになり、妻からの期待値が上がってきたことの副作用もあります。子育てに積極的な男性が、昇進・昇給の機会を奪われるなどの「パタニティー・ハラスメント」を受けたり、家庭でも「妻にはかなわない」と落ち込んだりして、ネガティブな状態になってしまうことも。「イクメンタル」とも言うべき状況です。そういう人にこそ、「愛情曲線」を思い出してほしい。「(妻の夫への愛情が回復して)報われる時がくる」と励ましたいですね。
「孤育て」思い出し涙
届いた反響の一部を紹介します。
●「18年ほど前の12月、出産を間近に控えていました。医師に『いつ生まれてもおかしくない』と言われ、夫に電話をかけました。ところが、『忘年会だし、上司がいるから』と一方的に切られました。出産後も、夫は飲み歩く生活。『早く帰ってきて』と何度言ってもお構いなし。冬のある日、長男を1人でお風呂に入れ、裸でびしょぬれのまま着替えさせていたら、凍えて惨めに思えました。仕事、家事、育児といっぱいいっぱい。夫とけんかをし、さらに落ち込むのが嫌で不満はのみ込みました。長男が3歳の時、夫は東京への転勤が決まりましたが、『いつか行くから』と単身赴任させました。『孤育て』は目に見えていました。出産時に電話を切られたことは、絶対忘れないし、今でも怒りがこみ上げる。昨年『長男が高校を卒業するタイミングで離婚してほしい』と告げました」(愛知県・40代女性)
●「夫は元々長時間勤務。息子が5歳、娘が1歳の時から現在まで8年間、単身赴任をしています。『ワンオペ育児』『孤育て』という文字を見るだけで、ほぼひとりで家事育児を担ってきたことを思い出し、涙が出てきます。単身赴任はいつまで続くか分からず、子どもには自分でできることは自分でやってもらわねばと思います」(神奈川県・40代女性)
●「妻に家事育児を任せきりの夫は、共同経営している企業を丸投げして、自分は遊んでいるのと同じ。待っている結果は、企業の倒産か、夫が居場所をなくすかだと思います」(奈良県・50代女性)
●「親として、夫婦として、同じ立場のはず。それなのに、夫が家事や育児をした時、『妻の代わりにやっている』という意識が透けて見えてイラッとしてしまいました。こちらの意見を夫に言っても聞き流しているように見え、意見を聞いても真剣に答えない。意識改革は難しいです」(千葉県・50代女性)
●「我が家は、夫が主に育児をする『ツーオペ』です。子どもは夫が熱望しました。2016年に娘が生まれた後、会社員の夫は4カ月の育休を取りました。ミルクやおむつ替え、入浴と、新生児から娘を育て、成長を喜び、世話を楽しんでいるようでした。私は母性が乏しいと自覚しています。出産当初は育児に喜びを見いだせませんでしたが、夫の姿を見て、子育ては意義あるものと感じるようになりました。そこから育児を手伝うような状況になり、『ツーオペ』になったのです。復職後、夫は残業を制限し午後7時には帰宅するように。その後、私は第2子を出産し、2人で育休中です。食事、洗濯、寝かしつけとチーム連係しての子育て。この喜びを教えてくれた夫に感謝しています」(神奈川県・30代女性)
妻が専業主婦 分担は…
●「会社員。妻は専業主婦です。食器洗いや洗濯、ゴミ出しで、『家事をしてやった感』を出してしまい、妻をイライラさせてしまうことがあり、反省もしています。一方、『共働きではないのだから、私が外で仕事をし、妻は家の中を担当する。妻の家事と育児が多いことには納得してほしい』という思いもあります。妻が不満を感じ、不機嫌になって夫にあたり、夫は夫で、職場でストレスを抱え、家でもストレスをかけられ、それを耐え忍ぶだけが美徳ではないのではないか。感情をぶつけ合うのではなく、どうしていけばよいのか、互いに冷静に、前向きな話し合いができればいいなと思います」(北海道・40代男性)
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私は専業主婦の妻と長男(4)、長女(1)の4人家族。妻の負担を少しでも減らそうと、日々の洗濯や長男の幼稚園への送りなど、可能な範囲で手伝っているつもりでした。それでも妻に洗濯の仕方などで小言を言われると、「だったら自分でやれよ」と内心毒づいていました。
父親だって家事や育児にどう関わればいいか悩んでいるのではないか。少しでも共有したいという思いを6月の記事に込めました。
今回取材した兵庫県の女性(55)は「夫と家事や育児について向かい合って話すことはほとんどない」といいます。実は我が家もそうです。自分がしている家事は本当に妻の負担を減らしているのか聞いたこともなく、一生懸命やっていれば分かってくれるだろうと思い、自分の思いを伝えたこともありません。
仕事に日々追われると、夫婦で向き合って話すことも少なくなります。でも、家事や育児の考えのズレが大きくなり、離婚を選択する夫婦もいます。お互いにどういう不満があるかを夫婦で話し合って共有することがまずは第一歩だと感じました。(有近隆史、山本恭介、高橋健次郎)
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