ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった京都大の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授(76)が、若手研究者を支援する基金を京大に設立する意向を示している。朝日新聞の取材に対し、2日明らかにした。ノーベル賞の賞金や、がん治療薬「オプジーボ」の販売で得られた利益の一部を受け取るロイヤルティー(権利使用料)などを投じるという。背景には、国内の基礎研究費が低迷している現状がある。
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「若い人が(研究に)人生をかけてよかったなと、思えるような国になることが重要ではないか」。京大の2日の会見で、本庶さんはこう語った。
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基礎研究は、科学者が自身の自由な好奇心や発想に基づいて、新たな自然の原理などを見つけようとする研究だ。ただ、その成果を短期間で実用化に結びつけにくく、研究費の獲得は難しくなっていると指摘されている。
国から配分され、国立大学が自由に使える「運営費交付金」は、2004年度以降、1400億円以上減った。この間、基礎研究を支えるもう一つの柱「科学研究費助成事業(科研費)」の増額幅は、450億円にとどまった。
中国の急速な台頭もあり、日本発の学術論文の存在感は小さくなっている。03~05年には年平均6万8千本あった論文数は、13~15年は6万4千本に減り、国別順位は2位から4位に落ちた。減少したのは主要国で日本だけだ。
本庶さんらが発見した「PD―1」という分子を標的にしたがん治療薬は、すでに年間数千億円を売り上げている種類もある。オプジーボを開発した小野薬品工業(大阪市)と共同で出願した特許もあり、ロイヤルティーを基金にあてる意向という。
本庶さんは会見で、「基礎研究から応用につながるということは決してまれではない。しょっちゅうあるわけではないが、そういうことがあると実証できた。基礎研究を長期的な展望でサポートすることが重要だ」と強調した。
16年にノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典・東京工業大栄誉教授も基礎研究の重要性を訴え、東工大が設立した基金に1億円を寄付している。(合田禄、後藤一也、小宮山亮磨)