10月6日に最後の営業を終え、豊洲市場(東京都江東区)に移転する築地市場(同中央区)。世界最大級の水産市場である築地市場の看板の一つが、ウニのセリ。は手のひらに乗る1箱で1万円を軽く超える品もあり、競り落とされると、揺り動かさないよう静かに大事に運ばれていく。
魚河岸ものがたり
正門を抜け、青果棟と水産棟の間を貫く「旧時計台通り」の奥にウニのセリ場がある。バレーコートほどもある「低温卸売場」。真夏でも吐息が白くなる巨大冷蔵庫だ。ウニは築地に届くと、すぐにこの専用売り場に運び込まれる。
いまは飛行機で築地に届くが、1969年まで夜汽車で運んでいた。里見真三著「すきやばし次郎 旬を握る」に、名人・小野次郎さんのこんな言葉がある。
「朝、河岸に行くと、ウニの箱をいっぱい背負った男たちを何人も見かけて」
かつて、国鉄の定年退職者には鉄道のフリーパスが与えられたという。輸送費を抑えるため、そんな元国鉄マンたちが北の産地からウニを運んだ。小野さんが見たのは、北海道から一昼夜かけて青函連絡船と夜汽車を乗り継いでウニを運んできた人たちだ。
「ウニは、ウニに携わる人たちが工夫を重ねて育ててきた味なんですよ」。そう語るのは、築地市場の仲卸業者「マルツ尾清(おせい)」の靱江(うつぼえ)貞一さん(71)。築地で知らぬ人のいないウニのプロフェッショナルだ。
すぐに溶けてしまう弱点を克服…