今年のノーベル平和賞に選ばれたイラクの少数派ヤジディ教徒のナディア・ムラド・バセ・タハさん(25)が8日、米ワシントンで記者会見した。受賞決定後、公の場で語ったのは初めて。ムラドさんは「声を上げられない人々の声になる。正義を求める人々のために立つ」と語り、性被害を受けた女性や迫害されている少数派のために、今後も活動していくと誓った。
ムラドさんは冒頭、今年のノーベル平和賞に選ばれたことについて、「大きな驚きで名誉」と述べた後、「同時に(自分が)大きな責任を(持つことを)はっきり理解した」と語った。
さらに、「私の目標は中東や世界で虐げられている少数派や性暴力の被害者を守ることだ」と説明。そのうえで「一つの賞や一人の人間では、その目的を達することはできない」と強調。「全ての政府に虐殺や性暴力の犯罪と闘うことを求める。世界は道徳的、法的な責任を持たないといけない。国益の前に人道主義がなければならない」と述べ、被害者救済へ国際社会がもっと積極的に取り組むよう訴えた。
ムラドさんは2014年に過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致され、「性奴隷」としてIS戦闘員らからレイプや暴力を繰り返し受けた。脱出した後は被害の実態を証言し、性暴力の被害者救済を訴え続けている。ISに対しては、「数え切れない人々の命を奪った。社会を破壊したのだ」と強く非難した。その上で「(IS)メンバーを殺すことが正義なのではない。メンバーを法廷に連行し、罰することが正義だ」と語った。
また、セクハラなどの性被害をSNSなどで告発する「#MeToo(私も)」運動について問われると、「私の望みは、性暴力の体験を訴えるすべての女性が、その訴えに耳を傾けられ、受け入れられることだ。そして、痛みを分かち合うこと、声を上げることを(女性が)安全と感じることだ」と語った。
ムラドさんは約40分の会見中、常に冷静に、丁寧に記者の質問に答えた。ただ、笑顔は一度も見せなかった。(ワシントン=杉山正)