山形県唯一の離島、酒田市の飛島を拠点に事業を展開する合同会社「とびしま」が、今年から「有給休暇3カ月」制度を始めた。取得時期は観光と漁業が閑散期となる10~3月に限られるが、法定の割合から考えれば、破格の扱い。狙いは島への「若者誘致」だ。
「いらっしゃいませ」
勝浦地区の沢口旅館で、志田若菜さん(22)が宿泊客を迎えていた。白いシャツに黒いズボン、黒いエプロンとカフェ店員のような姿。仙台市出身で、今春に大学を卒業したばかりの新入社員だ。
大学では民俗学を専攻していたが、「自分が『会社で働く』というイメージがわかず、就活には熱心になれなかった」。就職が決まらないまま卒業式を迎えた当日、ゼミの教授から「とびしま」を勧められた。
島に来たことは一度もなかったが、同じゼミの先輩が同社にいた。そして何より「有給休暇3カ月」という条件にもひかれた。
昭和40年代から営業してきた沢口旅館は、高齢化と人手不足、後継者難を理由に前館主の沢口與四一さんと正子さん夫妻が土地と建物を「とびしま」に譲渡。今年4月から、看板はそのままに「代替わり」した。
志田さんは、先輩社員でもある島出身でUターン組の新女将、渡部陽子さん(33)と2人で、沢口夫妻から「島の旅館」のイロハを教わりながら半年を過ごした。宿泊客がたどり着くかどうかなど、船の運航に全てが左右される日々。「人生で初めて天気予報を真剣に見るようになりました」と笑う。来年1月からの3カ月有給休暇で、何をするかまだ考えていないという。
■なぜ「3…