なだらかな丘陵に広がる牧草地を、1台のフォード製のピックアップトラックが上っていく。10月上旬、ファームベルトの一角を占めるミズーリ州のシダー郡。ビリー・ブルースさん(34)は電気柵の前に着くと、クラクションを鳴らした。林の奥から30頭あまりの牛の群れが姿を現した。
「この牛にどんな人工授精を施せば、最高等級の子牛が生まれるか? 農家はいつも、先を読みながら動く。守るより攻める」。さながら馬をピックアップトラックに替えたカウボーイだ。
米国の農家は自らを「ビジネスピープル」(企業家)とみなす。広大な土地で最新鋭の農機を駆使し、世界市場をにらんでビジネスを展開する。独立心の強いカウボーイは伝統的に、小さな政府や自由貿易を掲げる共和党の支持基盤だ。
ところが、トランプ氏は伝統的な共和党とは違った。米国第一主義を掲げ、環太平洋経済連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)などの自由貿易協定を批判。中国などとの貿易赤字をことさらに問題視し、輸入品への新たな関税で他国を威嚇して、保護主義的な通商紛争を仕掛けている。
これに、中国は猛反発した。11月の米中間選挙を前に、トランプ氏率いる与党・共和党の支持基盤である農家に狙いを定めて報復関税を発動した。
トランプ政権が中国にしかけた「貿易戦争」。中国は、トランプ大統領の支持基盤の農家を狙い報復関税を発動した。米国の農家にはじわじわとその影響が迫っているが、トランプ氏支持の熱は冷める気配がない。なぜか。巨大穀倉地帯「ファームベルト」を歩いて答えを探った。
■「農家は常に戦う それが今年…