日本銀行は18日、全国の支店が地域の景気動向をまとめた「地域経済報告(さくらリポート)」を公表した。全国9地域のうち、自然災害の影響が色濃く出た北海道と中国の景気の総括判断を引き下げた。残り7地域は「拡大」などで判断を据え置いた。国内の景気は拡大が続いているとみているが、災害の影響の長期化や米中の貿易摩擦の深刻化が先行きの懸念材料だ。
9月の地震で大停電などが起きた北海道の景気には「地震の影響による下押し圧力」がかかっているとして、半年ぶりに判断を引き下げた。小高咲・札幌支店長は記者会見で「地震と停電の影響を最も受けたのは観光だ。(訪日客らの減少で)年内の宿泊客数は例年より1~2割減りそうだとの声もあった」と指摘し、マイナス影響が一定期間、続くとの見方を示した。今後は復興に向けた公共投資が本格化するが、小高氏は「建設業者の人手不足が解消していない。供給上の制約から公共事業が予定通り進まないことがないか注視する」と話した。
西日本豪雨で被害が出た中国の景気判断の引き下げは、2016年7月以来2年3カ月ぶり。広島に本社があるマツダや部品メーカーなどが大雨で生産の遅滞を余儀なくされた。生産状況について「一部で豪雨の影響が残存する」とし、前回の「増加している」から引き下げた。景気は「豪雨によりダメージを受けた」としつつ、「社会インフラの復旧で、影響は低減」しているとした。
一方、台風21号が直撃した近畿は景気判断を据え置いた。山田泰弘・大阪支店長は「一時落ち込んだ訪日客需要も年末にはほぼ戻るというのが、ホテルや百貨店の見方の大勢」とした。訪日客に人気の大阪ミナミの心斎橋商店街は、9月下旬には客足が戻ったという。
ただ、被災した関西空港の国際貨物の機能が一時止まったことで、多くの輸出企業は成田空港や中部空港などに製品を陸送し、輸出している。山田氏は「トラックの確保が難しくなり、運賃も高くなっている。台風の物流面への影響を注視する」と話した。
九州・沖縄の景気は「しっかりとした足取りで、緩やかに拡大している」とした。宮下俊郎・福岡支店長は「今夏の訪日客は例年より多かったと観光業界から聞いている。自然災害の影響が相対的に小さく、『他地域に行くつもりだった客が九州・沖縄に来た』という声もあった」と話した。
被災地の企業からは「余震が発生するなか、訪日客の戻りが鈍い」(札幌の宿泊業)、「年度内に生産の遅れを取り戻せない可能性が高い」(広島の自動車関連企業)などの声が出ているという。
米中貿易摩擦について、管内にトヨタ自動車などの大企業を抱える清水季子・名古屋支店長は「現時点で企業の生産計画に影響は出ていない。ただ、中期的には、まだまだ保護主義の拡大などの不安材料がぬぐえない」と話した。企業は「サプライチェーン(供給網)が多国間にまたがって複雑化しており、影響が見極め難い」(大阪の電気機械業)、「安価な中国製品が国内に流入し、国内市況に影響が出るのを懸念している」(山口・下関の鉄鋼業)などと警戒感を強めている。(榊原謙)
各地域の景気判断
(地域、景気の総括判断、矢印は前回からの変化)
【北海道】
基調としては緩やかに回復しているものの、地震の影響による下押し圧力がみられる ↓
【東北】
緩やかな回復を続けている→
【北陸】
拡大している →
【関東甲信越】
緩やかに拡大している →
【東海】
拡大している →
【近畿】
台風による経済活動面への影響がみられるものの、緩やかに拡大している →
【中国】
豪雨によりダメージを受けたものの、社会インフラの復旧などに伴い、豪雨の影響が低減する中で、基調としては緩やかに拡大している ↓
【四国】
回復している →
【九州・沖縄】
しっかりとした足取りで、緩やかに拡大している →