変わる資産運用
老後のために資産運用を考えていますが、どれだけ資金が必要なのでしょうか。注意すべき点はあるのでしょうか。
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老後に必要な資金の目安は夫婦で3千万円とよく言われます。実際にはいくら必要になるのでしょうか。
3千万円必要というのはどのような計算で出された数字なのでしょうか。
総務省の家計調査で65歳以上の無職夫婦の家計収支(2017年)を確認すると、夫婦の世帯収入は月20万9千円、支出は26万3千円となっており、不足額は月5万4千円(年65万円程度)となります。65歳から90歳までの25年間ずっと年65万円の赤字が出るなら累積で1625万円になります。
そこに病気への備えや家の修繕などの特別支出を1千万円程度加算して、切りよく3千万円必要と割り出しているのです。人生100年時代なら、同様の計算で100歳まで生きると仮定すると必要な金額は3500万円程度になります。
しかしこの計算方法はあくまでも参考値です。月20万円もあれば生活できる人、企業年金が充実しており逆に資産が増えていく人、持ち家でないので住居費だけで今後数千万円必要な人、ご家族の介護が必要な人など様々です。将来の年金の受給額が下がれば計算の前提まで変わってしまいます。
何歳まで生きるかは誰にもわかりません。介護など自分の事情以外で資金が必要になることもあるので、老後にいくら必要かは不明確です。
ただ、現在の生活水準を落とすことは難しいという人が多いと思います。ですから、現在の生活水準を維持していくためにはいくら必要かという考え方で必要な金額を算出し、リタイア後の不足金額を計算してみたほうがいいのではないでしょうか。つまり一人ひとり目標とするべき金額は変わってくるのです。
米国では、資産運用のファイナンシャルアドバイザーは顧客一人ひとりと相談し運用目標を決め、その目標を達成するのに最もふさわしい運用提案を行うのが主流です。
この手法は「ゴールベースアプローチ」と呼ばれています。日本では、何に投資すれば一番もうかるか、という提案が一般的なのに対し、ゴールベースアプローチではどういう運用をすれば老後に必要な資産をためられるか、または、今ある資産を運用しつつ使っていくか(資産寿命を長くするか)といった長期プランを顧客に合わせて計画し、その後は運用の実行・管理を続けていくのです。
ゴールベースアプローチの目的は目標の明確化です。目標なき行動は結果に結びつきにくいからです。明確な目標がない中で投資をしたら、良さそうに思えた商品を購入して相場の変動に一喜一憂する投機(ギャンブル)になってしまいがちです。投機は長期の資産形成には役に立ちません。
老後の必要資金についての注意点は、①必要金額は一人ひとり異なるため3千万円という数字をうのみにしてはいけない、②資産運用の目的・目標を明確化し、その目標を達成するのに最も適した運用方法で長期投資を行う、ということです。そのために専門家を活用することも検討する価値はあるでしょう。(ファイナンシャルスタンダード代表取締役 福田猛)