公立高校教師が、女子ラグビーの観客動員を押し上げた。成功の要因には、ラグビーに詳しくない人を巻き込む仕掛けがあった。
ラグビーワールドカップ2019
日体大の2季ぶりの優勝で幕を閉じた7人制ラグビーの太陽生命女子セブンズシリーズ大会(朝日新聞社後援)。10月13、14日の最終第4戦の三重・鈴鹿大会は計3436人の観客を集め、大会発足5年目で最多動員記録となった。日本ラグビー協会とともに「3千人集客プロジェクト」を推進したのは、地元・四日市工高の教員でラグビー部監督を務め、三重パールズゼネラルマネジャーでもある斎藤久さん(52)だ。
「自分たちのチームだけでなく、女子ラグビー界全体の価値を上げないと、スポンサーの価値も上がらない。たくさんの人に見て頂くことが大事だった」。10月14日。観客が多く入ったメインスタンドを見つめ、斎藤さんは笑った。
斎藤さんはチームのトップスポンサー、住友電装(本社・四日市市)に働きかけ、社内行事のスポーツフェスタを試合会場の隣で開催してもらった。その結果、製作所で働く同社社員が、家族とともに千人規模で足を運んだ。広場には飲食店の屋台やクライミング体験、動物の触れ合いコーナーなどが設置され、ラグビーを知らなくても楽しめる仕掛けになっていた。
2021年の三重国体を見据えて3年前に発足したパールズを引っ張る斎藤さんは、30歳になる目前に、本場ニュージーランドに留学。ラグビーが人々の生活の一部になっている現地の文化に感銘を受けた。前任の朝明(あさけ)高では監督として全国高校大会に6度出場。実績を重ねつつ、チームと地域社会をつないできた。
女子ラグビーの可能性に気付いたのは10年ほど前。セカンドキャリアを考える中で「いま始めれば業界をリードできる」と少しずつ準備を進めたという。指導者、練習場など環境を整備し、今季は第2、3戦を制して台風の目となった。
決してラグビーが盛んとは言えなかった地方都市に女子ラグビーが根付いたのは、斎藤さんの先見の明と実行力があってこそ。「高校の教員であっても、もっとチャレンジしていい。そんなことが伝われば、うれしいかな」。目指した地元での優勝は逃したものの、日焼けした顔は充実感にあふれていた。(野村周平)