建物の免震・制振用ダンパーの検査データを改ざんしていた油圧機器大手KYBは6日、2018年9月中間決算(国際会計基準)を発表した。問題のあるダンパーを交換するための費用などで3年ぶりに赤字に転落したが、対策費用はさらに膨らみそうだ。
改ざん発覚前の8月には中間期で69億円の純利益を見込んでいたが、119億円の純損失(赤字)となった。19年3月期通期も160億円の純利益を予想していたが、23億円の純損失見通しに下方修正した。
赤字転落を招いたのが、ダンパーの交換工事にかかる費用だ。国の基準や、顧客が求める性能に適合しない疑いのある免震・制振用ダンパーを交換するため、新たなダンパー約1万本の製造に82億円、免震用ダンパーの交換工事に63億円をそれぞれ計上した。関連して、ダンパーを生産する子会社カヤバシステムマシナリーの固定資産の減損処理に20億円かかった。
だが、対策費用はこれで済むわけではない。加藤孝明副社長は決算会見で「今の時点で見積もれなかったものが出てくる可能性がある」と明かした。たとえば制振用ダンパーは過去に交換した経験がないため、工事費用については「見積もりできない」(加藤副社長)という。
交換工事の前提となる建物の所有者への説明も道半ばだ。KYBは、官庁などを中心に問題のダンパーを採用した物件名を公表しているが、マンション住民への説明は全くできていないという。ダンパー採用物件の安全性の検証は年内に終える方針だったが、加藤副社長は「厳しいスケジュールかもしれない」と遅れる可能性を示唆した。
KYBは10月、同社と子会社が製造した免震・制振装置の検査データに改ざんがあったと発表。約2年かけて問題のあるダンパーすべてを交換するとしてきた。交換作業を優先するため、新規の受注を停止する方針だ。東海林孝文専務は「19年度以降は受注が止まる。少しずつ(売り上げが)減収になることが見込まれる」との見通しを示した。主力の自動車部品への影響はないとした。
データ改ざんの発覚で、ゼネコン各社が懸念するのが免震・制振装置の今後の供給不足だ。免震・制振用オイルダンパーの市場シェアで、KYBと、同じく改ざんがあった川金ホールディングスの子会社を合わせると過半を占めるからだ。
2社は第三者の立ち会いのもと、交換用や契約済みの製品を生産する。交換を優先して新規の受注を止めるため、今後開発予定の高層ビルやマンションなどで着工や完成の遅れが生じる恐れがある。清水建設の東出公一郎副社長は5日の中間決算の会見で「新規の工事には多少影響が出てくるかもしれない」と語った。
免震・制振で使うダンパーには、揺れの力をオイルで抑える製品のほかに、素材に鉛など金属を使ったダンパーがある。国土交通省は、2社が新規に供給できなくなった場合でも、代替品に切り替えてもらうなどの対応を想定する。
ただ、ゼネコン側が新たな調達先を確保するのはこれから。オイル製は性能が安定していて、「単価は高いが、使い勝手が良いことで広まった」(ゼネコン担当者)とされる。ゼネコン各社は今後、海外メーカーを含めて調達先の検討を急ぐ。(北見英城、田中美保)