負傷から時間がたった慢性期の脊髄(せきずい)損傷のマウスに、ヒトのiPS細胞から作った神経のもとになる細胞に特殊な前処理をして移植すると、運動機能が回復したとする研究成果を、慶応大のグループが発表した。細胞を移植しても効果がないとされてきた慢性期でも、回復の可能性を示している。論文は30日、米科学誌ステムセルリポーツに掲載される。
脊髄損傷、患者の幹細胞で治療 「一定の有効性」承認へ
同大の岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループは、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞50万個を、慢性期(損傷後42日目)のマウスの脊髄の損傷部近くに移植した。
移植する細胞にはあらかじめ「GSI」というアルツハイマー病の薬として開発された物質を加えた。神経細胞への分化が促されたり、神経細胞の「軸索」という突起が従来よりも伸びて刺激を伝えやすくなったりしたという。
GSIを加えた細胞を移植した複数のマウスと、加えなかった細胞を移植したマウスを比べると、GSIを加えた細胞を移植した方は、移植の約2カ月後から後ろ足が動くようになった。
岡野さんと中村さんらは、iPS細胞を使った脊髄損傷の人間への臨床研究でも、今後、慢性期も対象にする方針だ。(戸田政考)