サッカーJ1が12月1日、最終節を迎える。全18クラブのうち、今季最も浮き沈みが激しかったのがガンバ大阪だ。前半から長い間、降格圏に低迷しながら、終盤に怒濤(どとう)の勢いで巻き返し、8位に浮上。最終節の柏戦にはクラブ新となるリーグ10連勝がかかる。7月に就任した宮本恒靖監督はどのように西の雄を再建したのか。激動のシーズンを振り返る。
11月24日のホーム最終戦後に行われたセレモニー。宮本監督があいさつに向かうと、大きな拍手がわき起こった。「厳しい状況の中、選手、スタッフ、クラブ、サポーター、みんなが一つの方向を向いて戦ったことが結果につながった」
最悪のスタート…監督解任へ
今季の前半。チームはバラバラになりかけていた。新たに就任したレビー・クルピ監督のもとでタイトル奪還を掲げたが、開幕6戦未勝利と最悪のスタート。指導法がチームに合っていないことが最大の不振の要因だった。練習は紅白戦が中心で個々のアイデアに局面の打開をゆだねるスタイル。結果が出ない中、選手は自身の役割を理解できず、混乱が広がっていた。
W杯中断期間に入った6月には山内隆司社長が異例の謝罪声明を発表。補強に動くことを明言したが、FW柿谷曜一朗(セ大阪)らの獲得に失敗した。状況は改善されないまま中断明け後も連敗し、前半の17試合は勝ち点15で16位。J2降格が現実味を帯びていた。
そして7月23日、クラブはクルピ監督を解任。白羽の矢を立てたのがJ3のガ大阪U23を率いていたクラブ生え抜きの宮本監督だった。「いつかはやってみたかったが早かったなと。でもお世話になったクラブに恩返しがしたかった」。そう当時の心境を振り返る。
「ガンバの宝」、まずは守備を改善
現役時代に日本代表主将も務めたリーダーシップは誰もが認める一方、懸念する声もあった。2012年にはセホーン監督解任後、クラブOBの松波正信監督がトップチームで初めて指揮を執ってJ2に降格した例がある。“ガンバの宝”として将来を嘱望されていた41歳には過酷な状況での船出だった。
宮本監督は最初のミーティングで残留がノルマであることを選手に強調した。「残り17試合で8勝。勝ち点39に伸ばそう」。具体的な数字で目標を明示した。
まず鍛え直したのは規律のなさが目立った守備だ。前線からの連動した動きを求め、守備を怠ったFWアデミウソンには映像を見せながら「あと2メートル下がればパスコースを消せる」。個々に問題点を指摘した。
続いて運動量。クルピ監督の下ではフィジカルトレーニングが少なく、90分間走りきる体力がなかった。そこで取り組んだのが練習の数値化だ。採り入れたのが「デジタルブラジャー」と呼ばれる上半身の装具。GPS機能が付いており、走行距離、スピード、体の傾きなどが計測できる。負荷をかける日なら7キロ、軽めなら4キロなど数値を定めてメニューを作成。DF呉宰碩(オジェソク)は「練習の質は明らかに上がった」と語る。
クラブ記録の10連勝なるか
すぐに結果が出たわけではない。就任後7試合は1勝3敗3分けと苦しんだ。それでも宮本監督は「勝負はまだ先やと思っていた」。補強したMF小野瀬康介とFW渡辺千真、けがから復帰したMF今野泰幸、アジア大会で得点王に輝いて合流した韓国代表のFW黄義助(ファンウィジョ)――。ピースがそろうと、成績は上向いた。
9月1日、首位争いをしていた川崎を2―0で破った試合をきっかけに連勝街道へ。的確なポジショニングと運動量で相手を上回った。データにも表れている。宮本監督就任前の7月18日の広島戦(●0―4)の走行距離はチーム全体で98キロ、スプリント(時速24キロ以上)は99回。一方で11月3日の浦和戦(○3―1)は走行距離が114キロ、スプリントは216回だ。また9連勝中は後半の得点が10で、失点は2。終盤の強さが際立った。
「(5連勝目の)セレッソ大阪戦あたりからは負ける気がしなかった」とゲームキャプテンのDF三浦弦太は言う。宮本監督は「選手が自信を回復してくれた」。結果を出しながら、指揮官が最も大切にする一体感も生まれてきた。
ただ、宮本監督は現状に満足はしていない。「シュート数が少ないし、見ている人が身を乗り出すシーンをもっと作りたい。目指すサッカーが10なら今は3か4。良くなる余地はまだまだある」。来季はタイトル争いに加わることが目標だ。最終節は21年前のクラブ記録を更新する10連勝を飾り、その力を示したい。(岩佐友)
ガ大阪の今季前半と後半の成績
第1節~17節 第18~33節
(17試合) (16試合)
監督 レビー・クルピ 宮本恒靖
成績 4勝10敗3分(15) 10勝3敗3分(33)
(勝ち点)
得点 15 24
失点 25 17
(11月30日現在、残り1試合)
ガ大阪の今季の全試合成績
節 結果 順位
1 ●2―3名古屋 14
2 ●0―1鹿島 17
3 ●0―2川崎 18
4 △2―2柏 18
5 ●2―3FC東京 18
6 ●0―1神戸 18
7 ○2―0磐田 18
8 ●0―3長崎 18
9 ○1―0セ大阪 17
10 ●0―1湘南 17
11 ○3―0鳥栖 16
12 ○1―0仙台 15
13 ●0―2札幌 16
14 △1―1横浜マ 16
15 △0―0浦和 16
16 ●0―4広島 16
17 ●1―2清水 16
18 △1―1鹿島 16
19 △1―1磐田 16
20 ●2―3名古屋 17
21 ○2―1FC東京 17
22 △1―1札幌 18
23 ●1―2仙台 17
24 ●0―3鳥栖 17
25 ○2―0川崎 17
26 ○2―1神戸 17
27 ○2―1清水 17
28 ○1―0広島 13
29 ○1―0セ大阪 12
30 ○2―1横浜マ 10
31 ○3―1浦和 9
32 ○1―0湘南 9
33 ○2―1長崎 8
11月30日現在、残り1試合。
第17節終了後にクルピ監督が解任。宮本監督が就任