「ビューティフル!」
11月下旬、京都・祇園の夜のお座敷。桃色の着物に紅葉(もみじ)の髪飾りをつけた舞妓(まいこ)のゆり葉(は)さんが、芸妓(げいこ)のまほ璃(り)さんの三味線で「祇園小唄」を舞うと、米国人のスティーブ・ウィリアムスさん(58)と妻のリンダさん(60)が感嘆の声を上げた。
訪日客ニーズに異変あり かつて「爆買い」今は?
夫妻は慣れない箸づかいでさばずしを味わいながら、「どんな稽古をするの?」などと日本人の通訳を介して矢継ぎ早に尋ねた。「君はスーパースターになれる」と言えば、「うれしおす」とゆり葉さん。会話も弾む。台の上に置かれたとっくりの「はかま」を取り合う代表的なお座敷遊び「金毘羅船々(こんぴらふねふね)」も楽しんだ。
花街(かがい)には「一見(いちげん)さんお断り」の伝統が残る。「ごひいき」と呼ばれる常連の同伴で訪れ、信用されて初めて通える。そんな場所に富裕層のインバウンド(訪日外国人客)が迎え入れられている。高齢化する国内のごひいきだけでは、京都の芸妓と舞妓約250人を支えづらくなってきた。
通訳付きで最大約3時間、つきっきりのもてなしを堪能する。場所や料金は外部には非公開。芸舞妓の派遣代やガイド代、食事代など、料金は日本人客と同等以上だという。仲介した「エクスクルーシブ京都」の澤田賢二代表(45)が、花街の常連客である自らの人脈を生かした。「本物の京都を体験したい富裕層に応えたい」。スティーブさんは「欧米でもオペラに高い金額を払う。芸を磨いている彼女たちをプライベートな空間で楽しめた」と満足げだ。
お座敷遊びサービスを昨春から手がける「エスフレイジ」は当初週1回だったが、口コミサイトで知られ、週4回で提供する。複数組でも受け付け、約2時間で料金は1人1万9千円。これまでに2500人が体験し、リピーターのロシア人もいるという。同社の永井雄一社長は「訪日客にも、(芸妓・舞妓をお座敷に送る)置屋にも新しいひいきができ、京の街にもプラス。三方よしだ」。
888年の創建で、「徒然草」にも登場する世界遺産の仁和寺(にんなじ、京都市)は、今春から外国人富裕層向けに宿泊業を始めた。料金は1泊100万円で2階建ての数寄屋建築「松林庵」で1日1組(最大5人)の限定だ。境内の古い家屋を1億6千万円かけて宿坊に改築。「そんな人が!という人からお話も来ています」と同寺の大石隆淳執行。最初の宿泊者も「世界的な著名人」だった。実績は5組ほどだが、世界各地から問い合わせがある。希望すれば別料金で、雅楽や舞楽を鑑賞したり、写経や生け花などの伝統文化を体験したりできる。仁和寺では代々、皇室関係者が住職を務めた。
大政奉還の舞台となった世界遺産の二条城(京都市)は来春、国宝・二の丸御殿の観覧料を別料金とし、すべて観覧する場合は大人を「600円」から「1千円」へと値上げする。年4億円の増収を見込み、総額100億円にのぼる城内の本格修理や電子決済の導入などに充てる。歴史ある観光地が「訪日客マネー」をあてこみ、新たなモデルを描き始めた。
入城者は2017年度が243万9千人で、大阪万博があった1970年度に記録した最多の211万人を47年ぶりに超えた。入城者の6割を占める訪日客向けにパンフレットを7言語でつくり、城内約400カ所の案内板を一新するなどしてきた。(佐藤秀男、向井大輔)