夕暮れ。勤務を終えた作業員が次々とプレハブの事務所に引き揚げていく。広大な敷地に、高さ約50メートル、鉄骨5階建て延べ20万平方メートルの巨大な工場が姿を現している。クレーン群や重機が投光器に照らし出され、まるで夜間照明に彩られたアミューズメントパークのようだ。
岩手県北上市の北上工業団地で7月に着工した半導体大手、東芝メモリの岩手新製造棟。建設現場では、連日1500人の作業員が2019年度中のライン立ち上げをめざして工事を進めている。
東芝メモリはNAND(ナンド)型フラッシュメモリーで世界第2位の半導体メーカーで、総売上高1・2兆円を誇る。親会社だった東芝の経営危機にからみ、米大手も巻き込んだ売却騒動に揺れたが、ここ北上を三重県四日市市に続く第2の拠点として整備を急ぐ。総事業費1兆円。従業員数は1千人に達する。
巨大企業の進出を、北上市は「地域振興の起爆剤」と位置づける。既にジャパンマテリアル、東京エレクトロンFEなど半導体関連5社(従業員計約500人)が進出を決め、十数社が立地を打診中。不動産開発やホテル進出の動きも活発化し、地方縮小の懸念はどこ吹く風といわんばかりの活況ぶりだ。
道路など関連インフラ整備に市が投じる総額は約50億円に及ぶ見込みだが、市企業立地課の高橋剛課長は「需要の拡大や人口増、税収増なども含めれば、投資を上回る波及効果が見込まれる。市の総合戦略の核になる」と期待を寄せる。
だが、光があれば影もある。北…