内戦が続くシリアで、伝統の影絵芝居をひとりで守っている男性がいる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)も注目しており、再興に期待がかかる。
影絵芝居はオスマン帝国時代にシリアをはじめ、トルコやエジプトなど中東地域で広がったとされる。シリアでは伝統的にカフェで演じられたが、テレビの普及や内戦による混乱で風前のともしび。現役で活動する影絵師はダマスカス在住のシャディ・ハラクさん(42)だけだ。ユネスコは昨年11月、シリアの影絵芝居を「緊急保護が必要な無形文化遺産の一覧表」に登録した。
ハラクさんは物語師だった父親の手ほどきを受け、1993年に影絵師となった。当時すでに廃れていたが、8千冊の文献を集め、芝居の筋書き、登場人物の特徴や話し方、人形の作り方を独自に学んだ。
だが反体制派の武装勢力が支配する地区内の自宅で保管していた文献や人形のほとんどを失った。2012年にレバノンに逃れたハラクさんは、難民として建設作業の仕事をしながら影絵芝居を続けた。14年にシリアに戻ってからは、タクシー運転手などをしながら2人の息子に影絵芝居を教えている。
影絵芝居は、親切でお人よしのカラコズ、ずるがしこいエイワズの2人のやりとりを中心に演じられる。ハラクさんは、内戦下で検問所が増えて身分証を手放せなくなったことや、危機を利用して金持ちになった人がいることをユーモアたっぷりに風刺する。
ハラクさんは「影絵師を育て、芝居の機会が増えれば人気はきっと戻る。ダマスカスやパルミラ遺跡などを舞台にした新しい話を作り、シリアを世界に紹介したい」と意気込んでいる。(ダマスカス=其山史晃)