さいたま市大宮区の鉄道博物館で先月、公開展示の車両が、愛称板を盗まれたり、施錠されている扉が開けられたりする被害に遭った。同館は一部の車両を公開中止に。各地の鉄道博物館も、身近に感じてもらうための公開展示と、展示物の保護のはざまで対応に苦慮している。
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同館は昨年7月の改装時に公開車両を増やし、東北新幹線で使われているE5系など展示車両41両のうち、18両は車内まで入れる公開展示としていた。
被害があったのは昨年12月28日。本館1階に展示されていた「クモハ455形電車」の乗降ドア脇についていた「まつしま」の愛称板(レプリカ)が別のものに変えられていたほか、施錠されているドアがこじ開けられた。隣にある「クハ481形電車」では、行き先表示器が変えられ、表示幕にしわが入ったという。
同館は今月2日、埼玉県警大宮署に窃盗と器物損壊の被害届を提出。警察を巻き込む事件となった。
さらに、被害車両を含め6両の公開中止にも踏み切った。「明らかに故意だから」と宮城利久館長(63)。開館当初から「鉄道を触って、乗って、肌で感じてほしい」と、可能な限り車内まで公開してきた。その理念に水を差す行為に「憤りを覚える」と語る。
従来も防犯カメラの設置や警備員の巡回など対策はしてきたが、今後、新たな対策も検討するという。「一部の心ない人の行動で、公開を中止した。大丈夫と思えるまでは公開できない」
京都市の京都鉄道博物館では、2016年の開館以降、盗難やいたずらの被害は確認されていない。館内には53両の車両が展示されているが、常時公開する車両は少ない。車両を「文化財」ととらえ、保護を重視しているからだという。
名古屋市のリニア・鉄道館では、11年の開館以降、いたずらなどの被害はあったが、公開は中止しなかった。展示車両39両のうち一部を車内まで公開している一方で、限定公開にしている車両もある。担当者は「保護を優先するならば、すべてを非公開にするのが一番いい。だが近づいて見てもらいたいという思いがある」と、悩ましい胸の内を明かした。(米田悠一郎)