カイシャで生きる 第21話
人生は一本道ではない。世間では「安定している」とされている道から一歩踏み出し、別の小道を歩いた方が、自分らしい生き方を見つけられることもある。
特集:カイシャで生きる
組織の歯車として一日一日を懸命に生きる。ときに理不尽な人事や処遇に苦しんだり、組織との決別、新しい人生を考えたり。様々な境遇や葛藤を経験しつつ前に進もうとする人々の物語を紡ぎます。
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「大事な話があります。会社を辞めます!」
バーベキューを楽しむ家族や親戚の前で宣言すると、盛り上がっていた空気が一変した。全員があっけにとられていた。
うつ病などに悩む人の復職・再就職を支援するベンチャー企業、リヴァ代表の伊藤崇(たかし)さん(40)は28歳のとき、IT大手の新日鉄ソリューションズ(現・新日鉄住金ソリューションズ)を退職する決意を固めた。大学院で学び、2004年に入社してから2年しかたっていなかった。
エンジニアとして大手証券会社のシステムを構築する仕事をしていた。巨大な仕事を複数の企業で受注し、連携してシステムを作り上げる。仕事は細分化され、納期に向けて指示された仕事をこなしていく毎日。自由な裁量もなく、顧客と顔をあわせることもない。自分が小さな「部品」になったようにも思えた。
そもそも、IT大手を就職先に選んだのは、大学の先生や親の視線を気にしていたからだ。同級生も就職先は大企業ばかり。仕事のやりがいについて考えていたわけではなかった。
自分が本当にやりたいことは何だろう――。悩んでいるときに、障害者の雇用支援をするベンチャー企業で働く先輩が「一緒に仕事をしないか」と誘ってきた。
先行きは見えない仕事だ。しかし、その方がワクワクして、自分の性分にあっているように感じた。
家族も会社の上司も転職には大反対した。
「少なくとも入社してから3年間は働いた方がいい」「もったいない」「君には期待している」。上司たちから繰り返し忠告され、「自分が間違っているのかな」と気持ちが揺れたが、やはりワクワクしたいのが本音だった。「自分はまだ20代だ。なんとかなるだろう」と迷いを捨てた。
■心を揺さぶられ…