■駅名もキラキラ? 林利夫さん(福井県坂井市 シティーセールス推進課長)
2017年春、福井県坂井市内にある「えちぜん鉄道」の四つの駅の名前が一斉に変わりました。坂井市を広くPRするため、出資する市と鉄道会社が進めた事業です。
テツの広場
カナ駅名「わかりやすさ」の幻想 歴史奪い、進む商標化
「ゲートウェイ」はあり 別の駅名で応募の市川紗椰さん
坂井市は福井県北部にあり、実は医療の充実度や住宅水準などを総合評価する民間の「住みよさランキング」で毎年上位に入っています。最高は全国2位。市内には越前がにで知られる三国港や景勝地の東尋坊もあります。しかし別の「住みたさランキング」では、なんと1千自治体中900位台。いい街なのに全然知られていなかったんです。
さらに、30年で子どもの数が4割減るという推計もありました。そこで取り組んだのが、駅名変更でした。子育て世代に選ばれる街になるためのブランドアップ戦略としてです。
はやし・としお
1958年生まれ。日本マクドナルド広報・IR部長から行政PRへ転身。兵庫県明石市、相模原市を経て、2015年から坂井市。
「太郎丸」は、「太郎丸エンゼルランド」に。エンゼルランドは宇宙飛行士の毛利衛さんが名誉館長を務める児童科学館で、ここが最寄り駅です。太郎丸だと「どこ?」という感じでも、科学館なら多くの親が知っているし語感もいい。「下兵庫(しもひょうご)」は、駅前地域とゆかりのある奈良・興福寺にちなみ「下兵庫こうふく」に。「幸せを感じる街」という思いも込めました。
市は看板や切符の変更費用など約1千万円弱を負担しましたが、駅名は地図やカーナビにもあまねく載るため、費用対効果はかなり高い。人口減の危機感を抱く多くの自治体が移住を呼び込む施策をしているいま、私たちも自分の街の良い情報はどんどん発信しなくてはなりません。
ただ、役所の宣伝ではないので、住民の皆さんが駅名に愛着を感じることが大切だと私は思います。市が考えた新駅名は地域と無関係のキラキラネームではなく、住民が大事にしている施設や公園の名が入っています。誇りや愛着には形がない。駅名という見える形にして、実感してもらいたかったのです。
改名を「自分事」に感じてもらうため、構想段階から地域と話し合いも重ねました。駅名は街のイメージとなり、沿線の発展にも影響する。鉄道会社のものであり、沿線住民のものでもあるのです。昭和初期の地名で住民に親しまれてきた旧駅名と合わせることにしました。住民、鉄道会社、行政、沿線企業にとり「四方良し」となった駅名変更に、反対は出ませんでした。
新旧の言葉がまざった「高輪ゲートウェイ」もうちと近いかもしれません。実は私も神田生まれの江戸っ子で地名に愛着があるので、「高輪」が残ったのはうれしい。公募をしたのに最終決定の過程が分かりにくかったから、批判も出たのでしょう。決めたからには、駅名を東京の人や沿線地域のためにどう最大限活用するかが大切だと思います。(聞き手・藤田さつき)
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1958年生まれ。日本マクドナルド広報・IR部長から行政PRへ転身。兵庫県明石市、相模原市を経て、2015年から坂井市。