厚生労働省は8日、不正調査が問題となっている「毎月勤労統計」の2018年の速報値を発表した。物価変動の影響を差し引いた賃金の動きを示す実質賃金指数は前年を0・2%上回った。プラスは2年ぶり。野党は、調査対象を絞った実態に近い「参考値」の算出を求めているが、公表されなかった。野党は独自試算ではマイナス0・4%だったとしている。
厚労省は不正調査による公表値を本来の数値に近づけるため、18年1月からひそかに調査対象を増やすデータ補正をしていたのと同じ手法で12年以降分を再集計した。この結果、18年1~11月の名目賃金の増減率は下方修正された。総務省の統計委員会は政府の統計として認める方向だ。
18年の名目賃金にあたる労働者1人当たり平均の月額の現金給与総額(パート含む)は、前年比1・4%増の32万3669円で5年連続で増えた。このうち基本給などの「きまって支給する給与」は同0・9%増の26万4633円で、賞与などの「特別に支払われた給与」は同3・7%増の5万9036円だった。
1・4%増だった名目賃金は再集計前の条件だと前年比1・7%の上昇で、再集計で0・3ポイント下がったことになる。
人手不足が深刻な建設や運輸・郵便、卸売り・小売りなどの業種で賞与などが増え、総額を押し上げた。一方、実質賃金の算出に用いる消費者物価指数は、原油高の影響などから前年より1・2%上昇。賃金の伸びを物価上昇がほとんど帳消しにした。
雇用形態別の現金給与総額は、フルタイム労働者が前年比1・6%増の42万3544円、パート労働者が同1・3%増の9万9813円だった。パートの時給は同2・3%増の1136円で、比較可能な12年以降、6年連続で増えた。パートで働く女性や高齢者の増加を背景に、パート労働者比率は、前年比0・17ポイント増の30・86%に拡大した。
18年1月には調査手法や対象の見直しもあり、この影響による増減率の上ぶれも起きている。このため、総務省の統計委は実際の賃金の変化率をつかむには17年と18年に続けて対象となった「共通事業所」に限った調査を重視すべきだとしている。厚労省は共通事業所の名目賃金の前年同月比は「参考値」として公表しているが、野党はより生活実感に近い実質賃金の公表も求めている。だが、厚労省は「統計として適当なのか、専門家の意見を踏まえて検討が必要」として、今回は公表を見送った。
野党はこれまで、18年1~11月の実質賃金の参考値を独自に算出し、9カ月分で前年に比べてマイナスとなると指摘。「アベノミクス偽装」だと批判を強めている。野党の試算について、根本匠厚労相は5日の衆院予算委員会で「機械的に計算すればおっしゃった通りだ」と追認している。
厚労省が同時に発表した18年12月の速報値は、名目賃金が前年同月比1・8%増の56万7151円で、参考値は1・7%増だった。実質賃金は同1・4%のプラスだった。(内山修、松浦祐子)