豚(とん)コレラの感染が5府県に拡大する中、被害拡大を食い止めるワクチンの使用を農林水産省が認めない方針を打ち出していることに、与野党から異論が相次いでいる。農水省は、ワクチンを使えば業者の衛生管理が不十分になりかねないのに加え、日本から豚肉輸出ができなくなるなどと説明するが、終息のめどが立たず、抜本的な対策を求める声が高まっている。
豚コレラは発症すれば治療法はないが、あらかじめ豚にワクチンを接種すれば予防は可能だ。被害拡大を食い止めるため、感染地域や周辺で飼われている豚に広くワクチンを使うべきだとの意見が出ている。
だが、農水省は「動物の養豚場への侵入を防ぐ網を設置するといった本来必要な農家の対策がおろそかになる」(幹部)としてワクチン使用を認めていない。中国では、ワクチンが効かないアフリカ豚コレラの感染が拡大している。ワクチンに頼らず、農家の対策の徹底を求めるのは、アフリカ豚コレラが国内に侵入した場合でも被害を最小限に食い止めるためだ。
いったん国内でワクチン使用に踏み切ると、国際ルールで豚コレラの「清浄国」とはみなされなくなり、海外に豚肉を輸出できなくなる可能性が高まる。過去には国内でも豚コレラ対策として組織的にワクチンが使われたが、2006年以降は使われていない。
それでも、被害が拡大し続ける状況に関係者は焦りを募らせる。7日の自民党の会合では、吉野毅・岐阜県養豚協会長が「(最初の発生から)5カ月を超すなか、被害が拡大している。ワクチン投入が終息への道だ」と訴えた。国会議員からも「なぜワクチンが使えないのか」などの注文が相次いだ。だが、小里泰弘農水副大臣は「国の衛生管理基準の徹底を一丸となって進める」と説明。ワクチン接種に慎重な姿勢を示した。
この日は国民民主党の玉木雄一郎代表も吉川貴盛農水相にワクチン使用を要請した。
ある岐阜県の養豚農家は「国の主張は正論だが、このままでは感染がさらに拡大する」と心配する。(大日向寛文)