「毎月勤労統計」の調査手法をめぐり、安倍晋三首相の秘書官から「問題意識」を伝えられた厚生労働省は、それから約2カ月後に見直しを議論する有識者検討会を立ち上げていた。ただ、最終的な結論が出ぬままに調査手法は変更され、賃金の増減率が上ぶれすることになった。政権の意向が影響したのか。変更の経緯を検証した。
毎月勤労統計の調査対象は約3万事業所あり、このうち約半分を占める従業員「30~499人」の中規模事業所は抽出方式で2~3年ごとに全部入れ替えていた。ただ、入れ替え時に厚労省が行う数値の断層の補正で、賃金の過去の公表値が大きく修正される問題が以前から指摘されていた。
2015年1月の入れ替え時には、増減率がプラスからマイナスに転落した月も発生。同月分の確報値とともに4月3日に公表された。14日の衆院予算委員会で菅義偉官房長官は、その直前の3月末ごろ姉崎猛統計情報部長(当時)ら厚労省幹部2人がこうした状況を当時の中江元哉・首相秘書官に説明し、中江氏が「実態を適切に表すための改善の可能性など」の「問題意識」を伝えたと説明した。
厚労省はその後、調査手法の見直しを議論する有識者6人の検討会を立ち上げ、同年6月3日に初会合があった。議事録によると、姉崎統計情報部長は「(安倍政権の経済政策)アベノミクスの成果ということで賃金の動きが注目され、特に実質賃金の動きが世の中的に大変大きな注目を浴びている」とあいさつした。
この検討会について、首相官邸の意向を感じた委員もいた。第一生命経済研究所の永浜利広氏は、「官邸が(改訂を)問題視して、なんとかしろと言う話で厚労省が立ち上げたのが検討会」との認識を示す。別の委員も「プラスだと喜んでいたところ実はマイナスだったということで、官邸が怒っているという話を、誰からか聞いた記憶はある」と証言する。
検討会はその後、調査対象の入れ替え時に大きく数値が変わることをなくすために、入れ替え方法や「過去の数値の改訂」方法を議論。6回の会合後、15年9月に「中間的整理」をまとめた。ただ、調査対象を毎年部分的に入れ替える方式への変更も検討されたものの、結論は示さずに「引き続き検討」との結果となった。
複数の委員によると、部分入れ…