4月14日告示の周南市長選の争点に、現市政が進めるPR事業「しゅうニャン市プロジェクト」が浮上している。市民グループの提案に市が協力した動画が出発点だが、立候補の意向を表明した県議が、品格がないとして撤退を明言した。「南」を「ニャン」と読ませる愛称が、なぜこうも議論を巻き起こすのか。
「猫の日」の22日。猫好きの市民グループ「しゅうニャン市ネコ部」が企画した「コラボ商品」のお披露目が市立徳山駅前図書館であった。
ヤマト運輸と共同制作した宅配便用の紙箱。青と白を基調にした格子模様に猫の顔や肉球などのシルエットがあしらわれている。代表の松森賀子さん(54)は「この街の良い物をたくさん詰めていろんな方に送ってください」とあいさつ。先着222人に無料で配布された。
長野県出身の松森さんが関西から引っ越して来たのは二十数年前。にぎやかだった市街地は次第にさびれ、「いい街なのにどうして」という思いが募った。尾上かおりさん(54)とネコ部を結成し、市に協力を呼びかけてPR動画を制作したのは3年前のことだ。
エープリルフールに向けたユニークな動画は「ユーチューブ」などで思わぬ大反響を呼ぶ。市は翌年、プロジェクトに着手。昨年秋には職員らのキャラバン隊が2カ月半かけて全国57自治体を行脚した。ネコ部もTシャツやマグカップなど民間企業などとのコラボ商品を次々と誕生させた。
一方、プロジェクトは当初から激しい反発に遭ってきた。関連事業費を計上した2017年度予算は市議会で激論の末、可決された。「税金の無駄」「単なる語呂合わせ」「神聖な市名をもてあそんでいる」と抗議する市議もいた。
市長選への立候補を表明した自民党県議の藤井律子氏は事業からの撤退を明言。「民間の活動は制約しないが、公的な予算付けはやめる」と言い切った。明確な争点化を避けるためか、3選をめざす木村健一郎市長も「今後は民間主導にしていく」とする発言が目立っている。
ネーミングの発案者でネコ部に協力しているクリエーティブディレクターの谷野栄治さん(43)は「CM制作の現場でも賛否両論がぶつかり合う。反対意見はあって当然」という。一方で「しゅうニャン市はたくさんの人に親しんでもらうための遊び心から生まれた愛称。もっと大きな、街づくりの課題についても政策を戦わせてほしい」と話した。
22日は市長選の立候補予定者説明会が市役所であり、木村市長、藤井県議の両陣営と、立候補を検討している前市長で市議の島津幸男氏の陣営が出席した。今のところ被選挙数2の市議補選の説明会もあり、7陣営が出席した。(三沢敦)
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〈しゅうニャン市プロジェクト〉 2016年4月1日のエープリルフールに合わせ、しっぽを付けた周南市の木村健一郎市長が「しゅうニャン市になります」などと宣言する動画が公開された。猫好きの市民グループ「しゅうニャン市ネコ部」の提案に市が協力した企画だが、思わぬ反響を呼んだ。
親しみやすく、覚えやすい語感が、全国的には知られていない「周南市」の知名度向上につながると考えた市は17年1月、「しゅうニャン市」を市の愛称に決定。インターネットに特設サイトを開設するなどPR作戦に乗り出した。