白面に機械むき出しの体をした、上半身だけのアンドロイド。銀色の両腕をくねるように動かすと、生のオーケストラが一斉に音楽を奏で始める――。
“人工生命”を搭載したアンドロイドと、人間とのコミュニケーションの可能性をさぐる4者共同の研究プロジェクトが始まり、28日、東京・初台の新国立劇場で記者発表があった。
アンドロイドの名は「オルタ3(スリー)」。大阪大学石黒研究室(アンドロイド開発・小川浩平)と、人工生命を研究する東京大学池上研究室が協力して開発した。前身のオルタ2と比べ、動力となる空気圧が高まり、よりきびきびした動きが可能に。両目のカメラや、口から声を出す機能も改良され、人間により近い表現ができるようになったという。
石黒浩・大阪大教授によれば、オルタシリーズは「生命感を表現するアンドロイド」。特定の性別や年齢がわからないように作ることで、見る人が自分の気持ちを投影し、生き物だと想像できるようにしたという。
人間の動きを見ながら自発的に動いたり、声を出したりすることはもともとできた。その動きや外見に着目した音楽家の渋谷慶一郎さんが昨夏、オルタ2(ツー)によるアンドロイド・オペラ「Scary Beauty(スケアリー・ビューティー)」を創った。自ら歌い、オーケストラを指揮する姿は音楽ファンを超えた話題になった。
この日の発表会では、「3」による「Scary Beauty」のパフォーマンスが披露された。「2」のときは腕の動きがフワフワとあいまいで、オーケストラ側が音を響かせるタイミングに苦労していた。今回は音を出すタイミングの示し方が明確になり、“指揮者”として腕前が向上した姿を披露した。
このプロジェクトには、ミクシィ、大阪大学、東京大学、ワーナーミュージック・ジャパンが参加。ミクシィが開発した動作をシミュレートするソフトにより、実際のオルタを使わなくてもテストができるようになった。ワーナーミュージック・ジャパンは、実験的なコンサートの場を提供する。
来年8月下旬には、新国立劇場が特別企画する新作オペラに“出演”することも発表された。指揮はせず、物語の核となる歌手として出るという。100人の子供たちによる合唱のほか、オペラ歌手、オーケストラ、合唱団、バレエ団が共演する。
作曲は渋谷さん、台本は作家の島田雅彦さん。指揮は同劇場の大野和士・オペラ芸術監督が手がける。
大野さんはアンドロイドの指揮者としての可能性を問われ、「もし、どんどん(研究が)発展して、出てきた音への反応も向上したら、私の職業は危ういですね。まあ、それにはもう少し年数はかかるのではないかと思います」と笑わせた。(安部美香子)