一度途絶えた明治の超絶技巧の工芸品「薩摩ボタン」を、現代によみがえらせた人がいる。鹿児島県垂水市にアトリエを構える絵付け師の室田志保さんだ。
薩摩ボタンは、薩摩焼の一種「白薩摩」の生地に花鳥風月などの図柄を描いたもの。直径約1~5センチのボタンをキャンバスに、ミリ単位で精妙な絵を描き込む。そのさまは吸い込まれそうなほど繊細で、「小さなボタンの中に宇宙を感じる」と言う。
外貨を獲得するため、薩摩藩が欧州向けに作ったのが始まり。明治以降、ジャポニスムの一つとして海外で注目されたが、繊細な技法ゆえに、次第に作り手がいなくなった。
薩摩焼の窯元で茶道具の絵付けをしていた室田さんは、たまたま雑誌で見た薩摩ボタンの美しさに心を奪われた。自分の手で復活させたい思いが高まり、絵付け師として10年経った2005年に独立。先達がいない中、独学で腕を磨き、新しい薩摩ボタンを模索してきた。「開拓者でありたいと思っていたので、伝統に縛られず自由に創作できる状況がかえってよかった」
世界中の個性派ボタンが集まる…