沖縄・辺野古で進められるアメリカ海兵隊基地建設のための埋め立てをめぐり、2月に実施された沖縄の県民投票で「反対」が7割を超えました。安倍晋三首相は「投票結果を真摯(しんし)に受け止める」と語りましたが、工事は続いています。沖縄の民意と、応じない政府。このことにヤマト(本土)の人々はどう向き合うべきか。考えてみたいと思います。
【アンケート】沖縄の県民投票
辺野古 本土の「意思」は
「みなさん一人ひとりがどうするかをぜひ考えてほしい。沖縄は反対の声をあげたが、他の都道府県の人は何も言わない、と政権から見透かされている。それでいいんですか」
8日、東京で開かれたシンポジウムで、「『辺野古』県民投票の会」代表の元山仁士郎さん(27)は「本土」の人々に語りかけました。
沖縄県名護市辺野古で進む米海兵隊基地建設のための沿岸部埋め立てに、県民投票で「反対」の意思が示されました。基地は海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)を返還するための「代替施設」ですが、もとより沖縄の民意は市街地の真ん中にある普天間をそのままにせず、新基地はつくらずに返還させること。つまり海兵隊の沖縄からの移転を含む見直しが必要です。その意思が明確になった今、次に問われるのは日本国民の「意思」です。
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県民投票に先立つ2月17日、東京都小金井市のJR駅前で、市民や市議らが道行く人に「シール投票」を呼びかけました。埋め立てへの賛否、そして昨年12月に小金井市議会で可決され、首相らに送付された「意見書」への賛否をパネルにシールを貼って答えてもらいます。
意見書は、辺野古の工事を止め、普天間の運用を停止し、国民全体で代替施設が必要か議論し、国内に必要となれば、基地が偏在する沖縄以外の全自治体を移設候補地として民主的手続きで解決する、というもの。
昨年9月の議会で陳情が採択されましたが、同趣旨の意見書案の採決にあたり、陳情に賛成していた共産会派が「国内に米軍基地をつくることを容認していると誤解を与える」と翻意。一部の文言を調整し、最終的に12月議会で可決されました。
シール投票を企画したのは、意見書案を添えて陳情を提出した沖縄出身の小金井市民、米須清真(こめすきよさね)さん(30)。自身も街頭で「考えるきっかけにして」と呼びかけました。
「県民投票で本当に問われているのは『本土』の人々。投げられたボールをどう返しますか? そのことを伝えたい」と語ります。
シール投票の結果は、辺野古埋め立て賛成5、反対144、どちらでもない6。市議会意見書は賛成91、反対4、どちらでもない1。
「投票」した人に聞きました。
埋め立てに反対、意見書は賛成の人は――。
「いつも考えている。沖縄はまるで植民地」(50代男性)
「基地をすぐになくせるかわからないが、沖縄の人は疑問と怒りを感じている。納得できるような形があれば」(高校1年男性)
「沖縄に友だちがいる。基地は人々の生活の中にあり、基地反対は言えないが、海を壊して新基地をつくるのは抵抗がある」(30代女性)
「ニュースで見た。埋め立ては反対。アメリカの言いなりではよくないと思う」(中学2年男性)
一方、埋め立てに賛成、意見書は反対の人は――。
「辺野古をやめたら普天間は動かないよ。日米安保がある限りどうにもならない」(60代男性)
「選挙で選ばれた上の方の人たちが決めたんだから」(80代女性)
街頭で呼びかけた小金井市議の片山薫さん(52)は「統一選後にはほかの自治体の議会にも訴えかけ、沖縄への意識を広げていきたい」と語ります。
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同様のシール投票は全国各地で行われ、県民投票当日の24日には大阪・天王寺駅前でありました。主催は市民団体「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」。①基地を「本土」へ移設②辺野古の建設続行③その他――の3択で、最多は「本土移設」でした。でも、メンバーの松本亜季さん(36)は言います。「沖縄を意識する人はいる。でも辺野古を『自分の問題』と思う人はなかなかいません」
「本土」の人が辺野古を「自分の問題」と思うには――。
翌25日、東京都小平市議会でも辺野古工事の中止や国民的議論を求める意見書案が可決されました。
請願を提出したのは、沖縄出身の針谷幸子さん(63)、東京生まれの武田恵さん(54)ら小平市民。
委員会で針谷さんは請願理由を説明しました。
「本当に代替施設が必要なら日本全体で考えるべきで、沖縄だけに解決策を問わないでほしい」
武田さんは針谷さんから聞かれたことがあるそうです。沖縄の基地を小平市で引き取れるか、と。「私は反対。でも市民がみなで話し合ってそう決まれば、受け入れます」
日本国民として日米安保と米軍基地にどう向き合うか。その議論が「本土」全体に求められています。(川端俊一)
押し付け もう終わりに
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●「年中移動する海兵隊には必ずしも沖縄の基地が必要ではないとか、米国はグアムでも良い意向だとか(断片的な情報で申し訳ないですが)様々聞くので、大いに疑問です。これらが本当なら、沖縄の民意を踏みにじって基地建設を強行するのは意味不明。今の日本政府がただ、“国の言うことを聞かない地方をどう遇するか”の見せしめのよう。少なくとも、辺野古は地盤に問題があるため本来の“速やかな危険性排除”にならないし、工事にどれだけ莫大(ばくだい)な税金が投入されるかも不透明なのは間違いないよう。なので辺野古は反対。とはいえ、史実に基づく正しい情報を国民に広く知らせないので、議論にすらならない。政府は議論にしたくないのでしょうが」(静岡県・40代女性)
●「地元が北海道ですが、沖縄の基地問題は、こまかな条件は違えども『辺境地』に負担が集中しているという点で共通していると思います。いま首都圏に住んでいますが、『辺境地』に負担だけ押し付けて自分たちは利益だけを享受する、そのようなシステム自体を見直すためにも、いわゆる『最低でも県外』の議論をすすめていく必要があると思います」(埼玉県・20代その他)
●「沖縄に米軍専用施設の7割が集中し、日米安保体制を8割の人が支持している。その現実を踏まえるなら、沖縄の米軍基地を『本土』に引き取り、『本土』で生活する私たちの問題として取り組むのが、沖縄に対する私たちの自立した責任ある生き方だと思う。『基地はどこにもいらない』という考えは、沖縄の米軍基地過重負担の現状を変える力にはならず、結果として基地の固定化を招いている。『沖縄に行けば安保が見える』との言葉があるが、『本土に足を踏み入れれば安保が見える』時にこそ、沖縄の問題ではなく、『本土』の私たちの基地問題となる。沖縄の基地軽減のためであるなら、自分の所に引き取り、自分たちの基地問題として取り組みたい」(東京都・70代男性)
●「ヤマトにとっては米軍基地が、住んでいる地元ではなく、沖縄にあることにホッとしているのではないかな」(熊本県・50代男性)
●「本土から沖縄に移り住むまで、沖縄のこういった状況をほとんど知らずに生きてきた。第2次世界大戦の地上戦で苦しい思いをした土地がまだ戦後70年以上たっても、基地の負担という形でその呪縛から解けないでいる。沖縄が日本の米軍基地の70%を負担しているのは異常だ」(沖縄県・40代女性)
●「民意を無視し、自然を破壊し、軟弱地盤等の問題が発覚してもなお強硬的に工事を進める政府のやり方には断固反対。辺野古に基地ができても普天間基地はなくならないかもしれないとも聞くし、なぜそこまで辺野古に固執するのか政府は説明すべき。そろそろ『真摯(しんし)に』向き合い、それを国民に示してほしい。米軍基地は減らしていってほしいけれど、どうしても必要というならば、きちんと国民に説明し、地位協定も見直し、基地が必要な状況を作らないよう努めてほしい。そして、今後は沖縄の基地負担も軽減させていくべき。いつまでも沖縄にだけ押し付けるのはもう終わりにしたい。これからはどんどん声をあげていきたい」(徳島県・30代女性)
●「いまだに核をメインとするパワーバランスの奇跡によって成り立つ不安定な世界情勢のなかではその覇権を握るアメリカの威光を借りるしかない状況。その威光すらも最近揺らぐなか、日本は戦後の安全保障体制を抜本的に見直す転換期に来てるはず。いま一度メディアが先頭に立ち公論を喚起せねばならない」(東京都・20代男性)
●「沖縄県以外の人たちは、辺野古移設をめぐる闘争は対岸の火事、つまり、自分には関係ない話だと思っているかもしれないが、それは大きな間違いである。沖縄が幾度となく示した『辺野古NO』の民意を完全に無視し、ここまでのことをできてしまうということはつまり、他の地域・個人が相手でも同じことができるということである。一見、自分に無関係だからと放置したその火事は、いずれその勢いを増し、川を渡り、こちら側へとやってくることだろう。火があちら側にあるうちに完全にその火種を消火してしまわなくてはならない」(東京都・20代男性)
●「どこかよそ事だった自国の安全保障の問題について、改めて捉え直し、考えるきっかけになった人が多いのではないだろうか。辺野古の問題を考える中で、基地や原発を地方に押し付けている都市部在住の人たちの、隠れた差別意識も可視化されてきた。言葉の上や理念だけでなく、平和な社会を具現化するためには、それぞれの地域で当事者として安全保障に関する議論を深めることが必要である。誰か任せにしないこと。自分の目で物事を見て、自分の頭で考えて、自分の言葉で語ることで、民主的な社会に少しは近づけるような気がする」(東京都・50代女性)
●「神奈川県では、大和米軍機墜落事故や横浜米軍機墜落事故が起きており、これらの事故では死傷者が出ていることもあり、住宅密集地にある普天間基地の危険性を考えると、環境など問題もあるが辺野古への移設を進めた方が良いかと思う。また、米軍基地の沖縄県への一極集中は問題だが、安全保障のことを考えると、沖縄県の基地は多少なりとも必要と思われる。(沖縄県への負担軽減は進めるべきだとは思う)。日本の防衛は、自衛隊が主体で行うべきであると思うため、いずれは在日米軍基地の縮小を考えるべきと思うが、段階を踏んで徐々に進めないといけないかと思う。また、その際は憲法への自衛隊の記載など憲法改正が必要かと思う」(神奈川県・30代男性)
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