23日に開幕する第91回選抜高校野球大会に、西日本豪雨で被災した広島県呉市から市立呉高校が出場する。2年ぶり2度目。部員たちは一時バットをショベルに持ち替えて、ボランティアで土砂のかき出しにも励んだ。そんな姿を知る市民らは、大舞台での活躍に期待を寄せる。
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初出場した2年前は8強をかけた履正社(大阪)戦で0―1で敗れたが、映画「この世界の片隅に」のヒットでわく街に、もう一つ明るい話題を提供した。
ところが昨年7月の豪雨で、呉市は大規模な土砂災害などに見舞われ、災害関連死を含めて27人が亡くなった。
ちょうど夏の広島大会の開幕前日だった。学校は校舎の一部が浸水。JR呉線は不通になり、市内は長期間断水した。野球部が使う臨海地区のグラウンドとその周辺も約10日間水が止まった。開幕は延期されたが、練習に参加できない部員もいた。
死者も出た呉市安浦地区に住む投手の藤井優輝君(3年)の自宅も床下まで浸水し、目の前の道路はくるぶしの高さまで土砂に埋まった。「自分が住んでいる所がこうなるなんて、信じられなかった」
安浦地区や、同じく人的被害の大きかった天応地区に、当時1、2年生だった野球部員約50人全員で出かけ、土砂をかきだすボランティアに加わった。「頑張ってもう一度甲子園に行ってくれ」。そう励ましてくれる被災者もいた。
昨年10月末に呉線の一部区間が再開するまでの約4カ月間、学校近くの寮で生活する藤井君に、さらに困難が待っていた。練習中に右肩を痛めてメンバー外に。以来、ほぼ一球も投げられないまま冬を過ごした。
「どうしてもあの夢のマウンドに上がりたい」と願い、かかりつけの医者に何度も相談したが、ベンチ入りはかなわず。選抜ではボールボーイとしてグラウンドから仲間の活躍を見守る。「とにかく勝利を祈るだけ。けがを治して、夏こそ甲子園で投げたい」と前を向き、黙々とトレーニングを続けている。
そんな部員たちを周りの人々も支えてきた。断水期間中は、保護者たちが散水車やポリタンクを用意して寮へ水を運んだ。
地下水を利用している学校近くの銭湯「鶴乃湯」は、練習後の部員たちを快く受け入れた。切り盛りする平石博さん(70)は「街を元気にするためには、あの子たちの頑張りが一番。のびのびと挑んでほしい」と期待を寄せる。
被災地の住民もエールを送る。自宅が全壊し、仮設住宅で暮らす天応地区の平井伯志さん(70)は「イチクレは希望の光。高校生らしい正々堂々としたプレーを見たい」と話す。同じく天応地区に住む辻村美央さん(25)は元マネジャー。「後輩たちもボランティアをしてくれたと聞いてうれしかった」という。「優勝という奇跡を起こして、被災地に元気を与えてほしい」と辻村さん。「今回も、甲子園に応援に行かなきゃね」。昔のマネジャー仲間たちと盛り上がっているという。
呉は、初出場だった2年前と同じく、開会式直後の第1試合に出場。23日に市和歌山と対戦する。(高橋俊成)