動物や人間の姿をユーモラスに描いた、京都・高山寺(こうさんじ)に伝わる国宝の絵巻「鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)」(甲乙丙丁〈こうおつへいてい〉の4巻)。4巻のうち、最もよく知られているのが、擬人化されたウサギやカエルが登場する甲巻だ。その甲巻の前半と後半で、作者が違っていた可能性が、近年の調査で高まっている。
鳥獣戯画は12~13世紀にできたとされる。作者や高山寺に伝わった経緯、制作の目的ははっきりとわかっていない。
甲巻の前半と後半は、ウサギの体形の違いなどから、別の作者によるものという説が以前からあった。
たとえば前半に出てくるウサギは、頭が大きく子どものような愛らしい体形だが、後半では頭が小さくなり、顔つきや体形がシャープになっている。この甲巻後半の筆致は、動物や聖獣を写実的に描いた乙巻の描写に通じるところがあるといわれている。
そんななか、2009年から朝日新聞文化財団の助成で4年がかりの解体修理が行われ、新たな事実がわかった。16年9月に刊行された修理報告書「鳥獣戯画 修理から見えてきた世界」(勉誠出版、京都国立博物館編)によると、甲巻の前半(1~10枚目)と、後半(11~23枚目)では、使われている紙が違うことがわかったという。作者が異なるという説を補強する材料になるとみられる。
一方、甲巻の後半の紙と、乙巻の紙(21~23枚目、31~32枚目を除く)は、極めて近い紙だという。
また、報告書には、甲巻の中盤と後半の絵の順序が入れ替えられていたことや、丙巻の前後半がもともと1枚の表裏に描かれていたことなども、その根拠とともに記されている。
鳥獣戯画は、大阪市北区の中之島香雪美術館で開かれる特別展「明恵(みょうえ)の夢と高山寺」(3月21日~5月6日)で公開される。美術館の大島幸代学芸員は「前期の後半(4月2~14日)には、甲巻の後半と乙巻が並びます。その筆遣いをぜひ見比べてみてほしい」と話している。(松本紗知)
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特別展「明恵の夢と高山寺」は、甲乙巻が展示される前期が4月14日まで、丙丁巻が展示される後期が4月16日から。鳥獣戯画は前後期の会期中、それぞれ巻き替えがある。問い合わせは中之島香雪美術館(06・6210・3766)。