議員を選ぶには、まず仕事ぶりを知ることから――。会社員から川崎市議に転身し、今期限りで引退する小田理恵子さん(47)の一日に密着してみた。すると、議員ならではの悩みも見えてきて……。
3月中旬の朝。登庁すると、資料を抱えた職員2人が控室の前で待っていた。
「すいませんね、早々に。先生」
川崎市議会定例会の最終日。一息つく間もなく、市内の認可保育所の監査状況について説明が始まる。
昨年末、幼児の頭を揺さぶるといった保育士の不適切な行為が明らかになり、議会で質問した。保護者からの相談がきっかけだった。市の調査の進み具合を見つつ、小田さんは国会内で与野党の国会議員たちと勉強会も開いてきた。
市の担当者は、これまで「待機児童ゼロ」を目指して保育所の拡充に力を入れてきたが、今後は質も確保し、監査結果を細かく公表すると説明。「時には厳しくやるといいのかな」。そう答えて、10分ほどで説明は終わった。
元々政治への関心が強かったわけではない。民間企業で自治体の行財政改革を担当し、その非効率ぶりにいらだったのが原点。話を聞いた夫のすすめもあって、8年前の統一地方選で旧みんなの党から立候補して当選。今は無所属で活動する。
日常は変わった。それまで縁がなかった地元の催しに招かれるようになった。「後援会がないので他の議員の半分以下」というが、参加する会合はスポーツ大会、祭りなど年100回ほど。見知らぬ人と向き合う機会が増え、市民の要望を聞くのも日課になった。
市議になって、政治や政策に対する市民の関心の低さを痛感した。政策についてSNSに書き込んでも、反応は「おいしいラーメン店、見つけた!」の投稿の10分の1ほどだ。「考えてみれば、私もかつては地元の政治家の名前なんて、気にかけませんでした」
どうすれば関心を持たれるか。目をつけたのは漫画だ。たとえば「一般質問の前に市職員と答弁を調整する功罪は」といった議会の常識への疑問をユーモラスに描いた。待機児童問題では、保育ママの話をルポ風に描いて話題を呼んだ。これらをベースに著書『ここが変だよ地方議員』にまとめた。
議員引退前の最後の本会議。自治会関連の条例改正案を他の議員とともに議員提案したが、反対意見が出ないまま結果は否決。「理想は、議員同士がちゃんと議論を交わして最良の結果を出すことだけど」。もっと議論してほしかったという悔しさがにじむ。
議員から見た「議員の見分け方」は? 「私は地元のためにこれをやりましたって強調する議員を信じちゃいけない」と小田さん。
「地域ごとに課題があって、その解決のための利益誘導を否定するわけではない。ただ、度を過ぎれば市全体で見ると無駄遣いが増え、ゆくゆくは子供たちの負担になる。将来まで見据えたバランス感覚が議員には大事です」
ただ、私たちがそこまで見極められるだろうか。「では、年齢とか仕事とか、自分の属性に近い人に投票してもいいのでは。議会が社会の縮図に近づけば、多様な意見が出て議論が活発になると思います」(村田悟)