神奈川県鎌倉市の砂浜に昨年8月に漂着したシロナガスクジラの胃から、ナイロン片が見つかった。海がプラスチックごみで汚染されている証拠だ。海洋プラスチック汚染への関心を高めるにはどうすればいいのか。東京都台東区の国立科学博物館で7日、シンポジウムが開かれた。
シンポジウムでは、まず漂着したシロナガスクジラの死骸を調査した国立科学博物館研究主幹の田島木綿子さんが、当時の様子や調査状況を報告した。
漂着したシロナガスクジラの体長は約10メートル、生後数カ月のオスの赤ちゃんだった。胃からはナイロン片が見つかったほか、体内からポリ塩化ビフェニール(PCB)などの汚染物質も検出されたという。
日本で年間300頭のクジラが海岸に打ち上げられているのが見つかっている。田島さんは「今回のように、生まれたてのイルカやクジラを調査する機会も多い。我々の社会が何らかの影響を及ぼしていないかを常に念頭におき、調査している」と話した。
クジラの胃からナイロン片が見つかったことがきっかけに、神奈川県は「かながわプラごみゼロ宣言」を出した。コンビニやスーパー、レストランなどと一緒にプラスチック製ストローやレジ袋の廃止や回収などの取り組みを進めたり、海岸を訪れた人にプラスチックごみの持ち帰りを呼びかけたりする。
神奈川県の山口健太郎理事(いのち・SDGs担当)は「ごみを拾う、ごみを捨てないという小さな一歩からでいい。声を掛け合いながら未来を変えていこう」と呼びかけた。
同県内では、海岸美化を専門とした公益財団法人「かながわ海岸美化財団」(
http://www.bikazaidan.or.jp/
)がボランティアとともに自然海岸約150キロを年間を通して清掃している。ここ20年間、毎年2千トンのごみが収集されているという。同財団の柱本健司さんは「海岸のごみは遊びに来た人が残したごみというより、約7割が川から流れてきたものだ」と紹介。「海のごみの問題は最近、注目が集まっているが、これまで長年指摘され続けてきた古くて新しい問題だ。再び問題が風化しないようが何ができるか一緒に考えよう」と話した。
3人の講演後、会場からは次々と質問や意見が寄せられた。「海外ではプラスチックごみ削減に参加しない方が恥ずかしいという雰囲気もある。もっと企業も巻き込みながら盛り上げていこう」という意見や、「自分の行動が問題解決にどうつながるのかが見えにくい。どれだけ環境に貢献できたのかが分かるような仕組みは作れないか」といった声もあった。
参加者の中村芽莉さん(25)は会場に来ていた学生、子どものいる母親、映画監督などで海のプラごみ問題のとらえ方は様々だったことが印象的だったという。「それぞれが納得し、支持できるやり方で関わっていくことが大切なのではないか」と話した。
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シロナガスクジラの研究成果やヒゲ板、頭骨の標本は東京・上野の国立科学博物館で6月16日まで開催されている「大哺乳類展2」(主催・国立科学博物館、朝日新聞社、TBS、BS―TBS)で展示されている。(杉本崇)