映画評論家おすぎさんと映画字幕翻訳の第一人者として知られる戸田奈津子さんが、名古屋市内の映画館の開業記念イベントで対談した。ふたりは平成のハリウッド映画を振り返り、戸田さんはハリウッド俳優との交流について語った。
まずはトム・クルーズ。戸田さんは「気温40度の新宿で、びしっと三ぞろえを着て汗ひとつかかない。スターは汗をかくとみっともないからと水も飲まない。自分をコントロールする意思がすごい」。すし店のカウンターで戸田さんと食事をした際には「酒は一滴も飲まず、ダイエットコーラを飲んでいた」と明かした。
おすぎさんが「ファンへの対応で、あんなにすごい人はいない」と続けると、戸田さんも「スタントマンを使って背中で撮る作品が多いが、トムは全部顔を出して命がけ。それが『ファンに対する礼儀だ』と言う。ファンサービスが突出している」と絶賛した。
続いてトミー・リー・ジョーンズ。「ハーバード大卒業のインテリ。ゴア元米副大統領とルームメートだった」と戸田さん。京都で食べたアユをとても気に入っていたという。
戸田さんによると、来日したハリウッド俳優の食事で定番なのが、すしとステーキ。最近ブームなのが、うどんやそば。「懐石料理はデリケートな味で、何かわからないからだめ」
「真っ白なキャンバスのような人」と戸田さんが形容したのがロバート・デ・ニーロだ。「役を表現するのは天才的にうまいが、自分を表現できない」。トム・ハンクスからは「いつも『お母さん』と呼ばれていた」と披露した。一番親しいのはリチャード・ギアで「自宅に泊めてもらったこともある」。
「嫌いな人は?」と、おすぎさんが問いかけると「二度と来るな、と思った人が5人くらいいる。亡くなった大スター」。名前は明かさなかった。
話は映画の翻訳にも及んだ。「昔は1週間に1本翻訳するのがノルマ。年間で50本。(翻訳者が)自分の名前ばかりの時代もあり、『戸田は助手をいっぱい雇っている』と言われたが、とんでもない。一言一句すべて自分でやった」。フィルムからデジタルの時代になり、封切りの直前まで場面やセリフを変えられるようになったため、翻訳作業は格段に難しくなったという。
おすぎさんは「(最近のハリウッド映画は)直前まで試写がないので、評論家の仕事がない。映画評論家なんて、いらない時代になってきた」と話した。
対談は19日、名古屋市中区のミニシネコン「伏見ミリオン座」が移転先で全面開業したのを記念して開かれた。
移転した新館は旧館に比べ、スクリーン数が3から4に、座席数も341から417に増えた。「単館系」と呼ばれるアート作品を中心に年間150~160作品を上映する予定。(滝沢隆史)