どうしてチーターは地球上で最も速く走れるの? テナガザルが腕を使って素早く木を渡れるのはなぜ? こうした疑問に、骨格と筋肉の動きから迫る研究者がいる。山口大共同獣医学部の和田直己教授だ。15年以上に及ぶ成果が東京・上野で開催中の「大哺乳類展2」(朝日新聞社など主催)で紹介されている。
プロジェクターに、疾走するチーターの全身骨格の動きが大きく映し出された。3月下旬、国立科学博物館の「大哺乳類展2」の会場。別のモニターにはバレリーナのようにチョコチョコ歩くアルマジロや、走る馬の映像も。「歩行一つとってもすべて違う。地球上のさまざまな環境に適応して進化してきた哺乳類の動きは、どれも面白い」。監修を務めた和田さんは、来場者に熱弁を振るった。
長崎県壱岐市で育ち、父親が折に触れて福岡市動物園に連れて行ってくれた。この体験から大学は獣医学部へ。そこで、エサや繁殖相手を求める動物の移動「ロコモーション」を専門にする恩師と出会った。メカニズムの解明に工学や運動力学といった複合的な知識が必要だ。数学や物理が好きだった和田さんは「これだ」と思った。神経の情報伝達を学ぼうと大学院は医学部に進み、神経生理学で博士号を取得した。
ロコモーションの解析にはまず、動物園でスロー再生できる高性能な複数のカメラを並べて動画を撮る。これにCTスキャンした動物の全身骨格のデータを重ね合わせ、骨や筋肉、重心がどう作用して運動が行われているかを調べる。筋肉の付き方を詳しく知るため解剖も重ね、国立科学博物館にも検体があるたびに赴いた。
解析の結果、獲物を追うチーターは頭の高さがほぼ一定で、獲物に焦点を合わせ続けられることが判明。テナガザルが枝を渡るときは振り子運動をしており、胸にある重心が放物線を描いていた。和田さんは「ロコモーションを見て人はなぜ美しいと思うのか。それを明らかにするのは興味が尽きない」と話す。
調べた動物は約250種。生き物の仕組みを応用し、車やバイクのサスペンション開発にも関わる。
「ロコモーションを知ったら動物園の楽しみ方が180度変わる」と和田さん。成果はホームページ(
http://mammals-locomotion.com/
)でも公開している。ただし、世界中の子どもたちに伝えたいと、すべて英語表記だ。
「大哺乳類展2」は6月16日まで。月曜と5月7日は休館(4月29日、5月6日、6月10日は開館)。一般・大学生1600円、小中高校生600円。問い合わせはハローダイヤル(03・5777・8600)。(山田菜の花)