神奈川県横須賀市で計画中の石炭火力発電所の建設計画をめぐり、リプレース(更新)を理由に簡略化した環境影響評価(アセスメント)の手続きを国が認めたのは違法だとして、周辺の住民らが27日、国の判断の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。温暖化防止を理由に石炭火力発電所の建設中止を求める訴えは、神戸市でも起きている。
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発電所は東京電力フュエル&パワーと中部電力が折半出資する「JERA(ジェラ)」が横須賀市久里浜で計画する「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機」(2基で出力計130万キロワット)。2023年以降の稼働を目指している。予定地には、主に石油を燃料とする8基の火力発電所があったが、01年から順次停止、17年3月にすべてが廃止された。
訴状などによると、環境省は発電所の更新によって温室効果ガスや大気汚染物質の排出が減る場合、簡略化したアセスの対象となると定めている。新発電所が稼働すると年間726万トンの温室効果ガス(二酸化炭素)が排出される。既存の発電所は稼働しておらず温室効果ガスが出ていない状態が続く。なのに、既存の発電所の稼働時より新発電所の方が二酸化炭素排出量が減るという事業者の主張を追認し、適正なアセスへの変更は必要ないとした経済産業相の判断は誤りだと主張している。
石炭火力発電所の新設は、今世紀後半の温室効果ガス排出「実質ゼロ」を決めたパリ協定や日本の温暖化防止目標にも反するとも主張している。原告団長の鈴木陸郎さんは提訴後、「若い世代の将来を奪わないためには、私たちが目の前の石炭火力発電所を止めることが必要だ」と話した。
欧州などで相次ぐ全廃表明、日本は…
石炭火力発電所をめぐっては、英、仏、独、イタリア、カナダは20年代から30年代に全廃することを表明。一方、日本政府は、石炭は安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源とする立場だ。環境NGO気候ネットワークの調査では、東日本大震災後、日本では50の石炭火発の新増設が計画され、13基は中止されたが、12基がすでに稼働、25基が建設に動いている。
こうしたなか、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は今月、新設の石炭火力発電所への融資を7月から原則として実施しないと発表した。国際的には早くはないが、日本の大手銀行が新設の石炭火力への融資中止を表明したのは初めてだ。(編集委員・石井徹)