東京都西部の市街地を流れる玉川上水。麻布大学教授(生態学)を務めた高槻成紀さん(69)と地元の人たちは、緑の帯を形づくる岸辺の樹木や野草の観察を続け、2年前から四季ごとに小冊子「玉川上水花マップ」を作ってきた。近く完成する四季を通じた小冊子からは、玉川上水が地域の豊かな植物を維持する役割を担っていることが浮かび上がる。
玉川上水は江戸時代の遺構で、現在は東京都羽村市から杉並区まで東西約30キロにわたって地上を流れる。太宰治が1948年に入水したことでも知られる。観察の参加者は2017年4月から毎月、場所を分担して両岸を歩き、花の種類などを調べてきた。
「花マップ」のアイデアは、玉川上水で自然観察を続けてきた「ちいさな虫や草やいきものたちを支える会(ちむくい)」に高槻さんが協力を申し出て、共に活動する中で生まれた。最初は10人に満たない人数で始めたが、現在は、活動の主体である「玉川上水花マップネットワーク」のメンバーは約30人にのぼる。
「山で花を見ても名前が分からず、役立つかなと思って参加した」と、山歩きが好きな佐久間信和さん(68)。長野県出身の住田景子さん(70)は「毎回2時間ほど観察するが、昔はこの植物を食べたとか、どうやって遊んだとか、仲間と話しながら歩いている」と話す。
参加者は植物観察の初心者もいて、誰もが確実に植物名が分かるとは限らない。データの信頼性を高めるため、高槻さんは必ずその場で撮影した写真を証拠に添えることをルールにし、報告を検証した。「科学的な厳格さを大事にすることで、専門家でなくとも膨大な貴重なデータを集められる」
小冊子は代表的な種類の解説や写真、スケッチを載せたり、分布図を示したりして資料的な価値を高めた。すでに夏、秋、冬の3冊が発行され、今は4冊目の春編を作成中。1年を通じたマップが完成する。
分布図を示したのは、夏は林の…