昆虫など交尾をする動物の多くで、雌の体内に雄から受け取った精子が貯蔵される。ただ、雌がその精子をどう使うかは、観察が困難なため、よく分かっていない。東京大大気海洋研究所の岩田容子准教授らのチームは、体長約2センチの世界最小のイカ「ヒメイカ」で受精させる様子の観察に成功した。映像の専門家も加わって進められた実験を説明しながら、研究の位置付けを紹介する。
日本の沿岸付近に分布するヒメイカ。体が小さいため、水槽をいくつか並べて飼うことができ、実験に使いやすい。
受精ではまず、ヒメイカの雄が精子の詰まったカプセルを雌の頭部に付ける。雌は、精子を10本の腕の付け根にある貯精器官へためる。そして、浅い海に育つアマモの葉の裏に一つずつ産み付ける。こんもりと重ねるのではなく、平面的に並べていくのが特徴だ。
ただ、受精は腕に囲まれた中で行われるため、観察しようとしても外からは見えにくい。せっかく飼っているのに、肝心なところが分からないというジレンマがあった。
そこでチームの一員で、生物の科学映像撮影を専門とする「ドキュメンタリーチャンネル」の藤原英史さんが、ガラスの水槽に外側から緑のビニールテープを貼り、海中になたびくアマモの葉に似せるアイデアを出した。すると、雌がテープのところに卵を産み付けるようになった。産み付け始めるとテープを剝がしても気にならないらしく、腕のなかで何が起こっているのかをガラス越しに観察できるようになった。
受精に先立って、雌が腕の中にゼリー状の物質をため、卵を産み込む。この時にできる筒状の空間が精子の通り道になる。雌はそこに精子が入っている貯精器官を押し付け、精子を放出していた。
卵への通り道に押しつけるため…