質が高くても、ブランド力がない地場産品は見向きもされない――。ふるさと納税の世界で、そんな負のスパイラルから抜け出し始めた町が岩手県にある。納税寄付額は2年で380倍近くに膨らみ、町の歳入の1割を超える値になった。この実績には、寄付額で常に全国トップクラスの宮崎県都城市の担当者も「すごい数字。相当な努力をしたのでは」とうなる。突破口を切り開くきっかけは、ある行政マンと民間コンサルタントとの出会い。自信満々の行政マンの鼻っ柱がへし折られていなければ、成功への道は開かなかったかもしれない。
一見地味でも注文続々
盛岡から車で南に30分ほど走ると、のどかな田園風景が広がる。人口およそ2万7千人の矢巾(やはば)町。いま、全国からふるさと納税の申し込みが相次いでいる。寄付額は2016年度の約396万円から、17年度には約1億7200万円と43倍に増えた。18年度は約15億400万円に達し、この2年で379倍に膨らんだ。
返礼品には地場産品のコメやリンゴジュースなどが並ぶ。一見地味だが、そんな品に1週間で50個、100個と注文が入る。
たとえば、チーズや海鮮クリームが入った「岩手のコロッケ」。元々は弁当や給食の業者向けだったが、返礼品に参加すると、20~40個入りの商品に1カ月で約500セットの申し込みがあった。注文は北海道や東京など全国から入り、リピーターが多いという。製造する「いわて食品」の久慈克彦社長(60)は「今まででは考えられない販路ができた」と喜ぶ。
エースの企画に「こりゃダメだ」
「知名度も名産品もない小さな町でも、全国に打って出るチャンスがある。そんな自信が生まれてきた」。矢巾町でふるさと納税戦略を手がけた企画財政課の吉岡律司(りつじ)課長(48)は力を込める。30代のころ、住民の合意を得ながら水道事業のコスト削減を実行し、全国各地に呼ばれて講演した経験を持つ役場のエースだ。だが、「稼ぐ町」への道のりは平らではなかった。
16年春、企画財政課に異動し…