山陰両県の6校が参加して松江市で6月にあった山陰高校野球大会の開幕試合。始球式に登場したのは2人の女子選手だった。
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今年4月に創部した島根中央高校女子硬式野球部の投手山田陽真里(ひまり)さん(1年)が投げた直球が主将で捕手の片山あずみさん(1年)のミットに収まると、スタンドから歓声が上がった。大役を終えた2人の顔には笑みが浮かんだ。
片山さんは「最初はすごく緊張したけど、(開幕試合に出場する)矢上高校の選手が声で盛り上げてくれて、投げやすい雰囲気を作ってくれた」と話した。
女子の硬式野球部は山陰両県で初だ。学校のある川本町が、過疎化が進む地域の活性化のため、町を挙げて高校の魅力を高めようと支援する。生徒数が減少し、特に女子の割合が低いことの打開策としてできたという。
野球部の原田正部長は「今までは県内の中学校で野球をする女子生徒が、高校で硬式野球をする受け皿がなかった。中国地方の他県の生徒にも関心を持ってもらえる。町と協力してリサーチし、創部が決まった」と経緯を語る。
今年は島根のほか、山口県や広島県から集まった計14人の1年生が、寮生活しながら野球や勉強に励む。
練習は、放課後に学校から自転車で川本町民野球場や閉校した小学校のグラウンドに向かい、午後7時ごろまで励む。週に1回は、約60人いる男子の硬式野球部と一緒に筋力トレーニングなどをこなす。
山口県から進学した山田怜奈さんは、小学4年で少年野球チームに入り、中学では男子と一緒に野球部に所属した。中学3年の夏、島根中央高校の女子硬式野球部員募集のパンフレットをたまたま目にし、「これは運命だ!」と感じ、進学の検討を始めた。オープンスクールに足を運び、練習施設や勉強と両立ができる環境を知り入学を決めた。「大谷翔平選手みたいな4番打者になりたい」と言う。「私たちは1期生。自分たちの進んだ道が、そのまま伝統になるのは、とても誇らしいこと。良い伝統をつくっていきたいです」と笑顔を見せる。
創部元年の今年のチーム目標は、全国高校女子硬式野球連盟に加盟する高校や連合チーム計32チームで争われる全国高校女子硬式野球選手権大会での1勝だ。7月26日~8月2日に兵庫県丹波市である。片山さんは「今年は声と全力疾走ではどこにも負けないように。そして、3年生で迎える大会では、絶対に全国制覇したい」と意気込む。
「どんなふうに指導するか。選手たちと一緒に私も手探りで頑張ってます」。大学卒業とともに監督に就任した大倉史帆里さん(22)はそう語る。山口県出身で、小学生で野球を始めた。野球に打ち込める環境を求め、女子硬式野球部がある神村学園高等部(鹿児島県)に進学。平成国際大学(埼玉県)では、野球部でエースを務めた。
指導者としてはスタートを切ったばかり。野球の技術だけでなく、周囲の人たちへの感謝や思いやりの気持ちも教えていきたいと思っている。「野球は一人じゃできないですから。女子硬式野球の発展のために貢献したい」と大倉監督。
産声を上げたばかりの女子野球部だが、野球人口の減少は進む。
県高野連の萬治正専務理事は「野球人口が減っている県内で、女子硬式野球部の創設は、島根県の野球全体を盛り上げていく上で大きな出来事だ」と語る。大倉監督は「男子の野球人口が減る一方、全国では高校の女子硬式野球部は年々増加している。島根県に初めて女子野球部を創部したことを契機に、県内の野球が盛り上がればうれしいです」と話した。(浪間新太)