覚醒剤取締法違反(使用)罪に問われた50代の飲食店女性従業員=名古屋市=に対し、名古屋地裁の岩田澄江裁判官は12日、「男の暴力に恐怖心を抱き、注射を拒絶できなかった可能性が否定できない」と述べ、無罪(求刑懲役1年6カ月)を言い渡した。
女性は昨夏、愛知県内で知人の男と共謀し、覚醒剤を使用したとして逮捕、起訴された。女性は男から暴行を受け、すきをみて家族にLINEでメッセージを送信。駆けつけた警官が覚醒剤を見つけるなどしたことから、2人を逮捕した。
女性は公判で、男から「暴力を受け、覚醒剤を打つことを拒めなかった」と主張。無罪を訴えていた。
判決は、検察官が作成した女性の自白調書と、取り調べの様子を録画したDVDの内容を検討。女性はDVDで「殴る蹴るの暴力を受け、殺されると思った」「怒らせて殴られたくない気持ちが大部分を占めた」と説明。一方、自白調書には暴力や恐怖心の記載はなく「殴られたくない気持ちと男の望むことをしてあげたい気持ち」は等しいとあった。岩田裁判官は「自白調書は供述を正確に録取したと認められない」とし「自らの意思で使用したと認められない」と述べた。
判決後、女性は「ほっとした」と涙を流し、弁護人の多田元弁護士は「女性は男から全身に激しい暴行を受けた被害者であり、起訴自体が極めて不当だった」と話した。名古屋地検の築雅子次席検事は「判決内容を精査し、適切に対応したい」としている。(村上潤治)