映画界でケンカ最強は――という話題が出る際、必ず名前が挙がるのが渡瀬恒彦だ。 『狂った野獣』などで見せた危険なアクションからも伝わる命知らずぶりは普段からもそうだったようだし、イメージが柔和になった晩年にあってもピリピリした怖さを漂わせていた。それでいて、空手や居合にも通じている。それらを踏まえると、渡瀬最強説に納得できてしまう。 今回取り上げる『極悪拳法』をご覧いただくと、たしかに彼は最強なのだろうと多くの方に納得いただけると思う。重厚感ある武骨な肉弾アクションを撮らせたら右に出る者はない小沢茂弘監督の腕が冴え、渡瀬の強さが目一杯に映し出されることになった。 舞台は第一次世界大戦中の東京。潜入した敵国のスパイをせん滅するため、腕自慢たちを集めた秘密組織が結成される。渡瀬が演じるのは拳法の達人で破戒僧、その名も鉄拳だ。彼も腕前を見込まれて、スパイ狩り軍団に参加する。 冒頭の憲兵相手の乱闘から、早くも渡瀬の凄みが伝わってくる。目から強烈な殺気を放ち、態度もふてぶてしい。構えの重心は低く、体幹はブレることなく張っており、全く隙がない。その体勢から繰り出されるパンチは速くて重く、キックはダイナミック。出てきていきなり、腕っぷしも度胸も抜群の猛者としての説得力にあふれている。 それに続く、手枷を嵌められたままの格闘シーンでも同様だ。パンチとキックに代わって肘や膝を自在に使いこなし、相手を踏みつけ、締め上げ、容赦なく痛めつける。全くハンデを感じさせないどころか、本当にこのまま相手を殺すのではと思わせるだけの生々しい迫力があった。殺陣=エンターテイメントの芝居としての表現力だけでなく、その動きは明らかに、実戦慣れしていると思わせるリアルさが感じられるのだ。 また、怒気に満ちた表情はもちろんド迫力なのだが、コミカルなシーンでも恐ろしさは変わらなかった。特に山城新伍の股間を握り潰さんとする際の仏頂面が怖い。 さらに驚かされるのは、本作にはガッツ石松、沢村忠、大塚剛、石橋雅史といった、正真正銘の格闘家たちが同僚役で登場するのだが、彼らの中にあっても、たたずまいのホンモノ感は全く見劣りすることがないのである。しかも、劇中で大塚剛に圧勝しているのだが、これも芝居ではなく真剣勝負をして本気で勝っているようにすら映っている。 ラストの土砂降りの雨に叩きつけられながらの大乱闘に至るまで、小沢監督は渡瀬の格闘能力を撮り切っており、その最強伝説を後世に伝える貴重な映像となった。 (春日 太一/週刊文春 2025年4月24日号) |
渡瀬恒彦“映画界ケンカ最強説”に納得の迫力!春日太一が語る
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