サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会は4、5日、準決勝が行われる。4日午後9時(日本時間5日午前4時)からドルトムントでドイツ-イタリア、5日午後9時(同6日午前4時)からミュンヘンでポルトガル-フランスが激突する。各チームを率いるのは、いずれも個性的な監督ばかり。そのさい配の源流に焦点をあててみた。
◇ドイツ・クリンスマン監督(41)
約100年の歴史の中を持ちながら、ドイツ(旧西ドイツ時代を含む)の監督はクリンスマン監督で9代目。厳しい批判にさらされることが多く、「首相の次に難しい」(6代目監督のフォクツ氏)という難しい仕事に就いたのは、04年夏だった。
欧州選手権で1次リーグ敗退した責任をとって前任のフェラーが辞任したあと、協会からの就任要請を有力候補が次々に断った。短期間での立て直しは難しい。だれもがそう思う中、監督経験がなかったにもかかわらず要請を受け入れた。
現役時代は希代の「点取り屋」として鳴らし、90年W杯の優勝メンバーになった。イタリア、フランス、イングランドでプレーするなど、国際経験も豊か。世界のサッカーの進歩を肌で知る青年監督は若手を抜てきし、4バックから両サイドバックが積極的に攻撃参加するスタイルへの転換をはかった。
監督就任後も、米国に生活の基盤を置くスタイルを変えなかった。米プロスポーツを新モデルに、旧態依然とした指導方法を合理的なものへと改革した。レーマンとカーンに正GKの座を大会直前まで争わせるなど、競争主義も打ち出してチームの緊張感を高め、予選がないハンディを補った。批判も浴びたが、自分の信念は曲げなかった。
「監督の評価は勝つか負けるか。勝ちさえすれば、したことはすべて正しくなる」(フェラー前監督)。その言葉を地で行っている。【安間徹】
◇イタリア・リッピ監督(58)
「逆風」が吹き続けるからこそなのだろうか。見事な一体感を見せるイタリア。選手のモチベーションを引き出すことにたけたリッピ監督の手腕が発揮されている。
大会前にイタリアサッカー界の不正工作疑惑が表面化し、リッピ監督自身も事情聴取を受けた。ドイツ入り後は「W杯以外の話はしたくない」と一切、その話題を受け付けない。決勝トーナメント1回戦のオーストラリア戦前には、「これ以上、選手のプライバシーに触れるな」と会見で激高した。騒音から守る一方で、選手らには帰属意識を求めた。大会中、自由時間でも個人行動は許さず、テレビ観戦も一緒にした。
出場停止や故障などが相次ぎ、準々決勝までの5試合で控えGK2人以外、21人を起用した。チェコ戦では不調のジラルディノに替えて投入したベテランのインザギがゴール。オーストラリア戦では4試合目にして初めて先発から外れたトッティが途中出場で決勝PKを決めた。「監督は先発を外れる理由を説明してくれた。不満はまったくない。決断には敬意を持っている」と大黒柱のトッティが言う。先発も控えもなく、全員がチームの一員として高い意識を持ち続けている。
戦力はそろっていたが、スキャンダルの影響で大会前には優勝候補に推す声は消えていたイタリア。「ベスト4は最終的な目標ではない。今はすべてが可能だ」とリッピ監督。逆境を勝ち抜いてきた自信がのぞく。【辻中祐子】
◇ポルトガル・スコラリ監督(57)
4年前の日韓大会では母国ブラジルを率いて優勝した。ポルトガルを40年ぶりの4強に導いた今大会は、監督としての個人的な連覇と、史上初の外国人監督優勝がかかっている。
「人口1億8000万人の中から選りすぐるブラジルで決勝に行くより、1000万人しかいないポルトガルで準決勝に進む方がはるかに難しい」。こう語るスコラリ監督は、早くからレギュラーを固定し、チームとしての熟成をはかる少数精鋭主義でチームを強化してきた。
4-5-1のシステムは、すでに完成期にある。父親のように選手と接し、GKリカルドが所属クラブで不振が続いた時もかばい続けた。選手とは「信頼」という言葉で、深くつながっている。
4年前、ポルトガルは89、91年と世界ユース選手権を連覇した「黄金世代」を軸に臨んだが、期待を裏切って1次リーグで敗退した。その後、就任したスコラリ監督は、ポルトガル国籍を取得したブラジル出身のMFデコや、若いFWロナルドを中心としたチーム作りを進める。世代交代を強引に進める過程で摩擦も生まれたが、2年前の欧州選手権で準優勝という結果を残すことで、周囲を納得させた。メンバーの中で育まれた協調精神は、今までのポルトガルにはなかったものだ。
激情型で、選手を鼓舞するのがうまい。一方で、対戦相手のビデオ分析も欠かさないなど、バランスの取れた指揮官だ。【安間徹】
毎日新聞 2006年7月4日 9時43分 (最終更新時間 7月4日 9時46分)