イオンが、ダイエーとの資本・業務提携に乗り出すのは、少子高齢化や競争激化という小売業界全体の厳しい経営環境が背景にある。自らがダイエーを取らなければ、競合他社に奪われるという危機感もある模様だ。ただ、経営再建中のダイエーを抱え込むリスクは大きく、ダイエーの再建を果たしつつ、事業規模を拡大するうえでイオンの手腕が問われそうだ。
紳士服専門店のフタタ(福岡市)の買収劇に象徴されるように、小売業界は再編が目立ち始めている。「市場は着実に縮小するのに、店舗は過剰。再編で競争状態を緩和するしか生き残る道はない」(流通大手役員)との声は根強い。
産業再生機構が昨年3月、丸紅とアドバンテッジパートナーズ連合をダイエーの支援企業に決めた当初から、「2年後に争奪戦の2幕が開く」との声が出ていた。小売りには慣れていない商社と投資ファンドにダイエーの再建は難しく、再生機構が手を引いた後は小売り企業が再建に加わると見られていた。実際に、多くの企業がダイエーに関心を持ち続けた。
イオンは各地域の食品スーパーとの連携を強めてきたが、規模を一気に拡大するにはダイエーは欠かせない。まちづくり3法の改正で新規出店が困難になったが、ダイエーは主要都市に店舗展開している。逆に指をくわえてみていると、セブン&アイ・ホールディングスや世界最大の小売り企業、米ウォルマートなど競合相手に奪われる危険性があった。
一方、イオンの狙いはダイエーグループの食品スーパー大手、マルエツだ、との指摘も多い。衣料は景気や天候で売り上げが左右されるが、消費者が日々必要とする食品は安定している。スーパー各社にとって食品事業の強化は重要課題で、優良企業とされるマルエツをイオングループの食品スーパー、カスミと連携させるなど活用の方法は少なくない。
ただ、ダイエー本体の経営が依然として厳しいのも事実だ。再生機構のもとで54店を閉鎖したが、「店舗の3分の2は問題」(流通大手)とも言われ、大胆なリストラは不可避とされる。丸紅が社長はじめ取締役の過半数を送り込むことや、競合相手だったイオンとの連携に対するダイエーの拒否感は強いとされる。イオンにとっては難しいかじ取りが迫られる。
◇流通企業の再編、さらに加速へ
イオンとダイエーの資本・業務提携が実現すれば、流通企業の再編はさらに加速しそうだ。昨年末に発表されたセブン&アイ・ホールディングスとミレニアムリテイリングの経営統合は、コンビニ、スーパー、百貨店という流通業の業態を網羅した形だったが、今後もスーパーだけでなく、コンビニやドラッグストアなどさまざまな業態が絡んだ再編が進む可能性がある。
焦点の一つは米ウォルマートの動向だ。子会社の西友は06年6月中間決算で5期連続の最終赤字に陥るなど不振が続く。ウォルマートはイオンと同様、ダイエーを狙っていたとされ、「ダイエーを取れるかが今後の日本戦略の分かれ道」(流通企業役員)との声もあっただけに、ウォルマートの次の一手が注目される。
毎日新聞 2006年8月30日