信州大学繊維学部精密素材工学科の村上泰助教授の研究グループは、触媒を利用するゾルゲル法を用いて無機材料製の高屈折率層などを低温で作製する手法を確立した。将来の有機半導体レーザーや有機LED(発光素子)で耐熱性が高い無機材料によるコーティング層作製に必要な要素技術という。
具体的には、高屈折率層としてチタニア(TiO2)層を、塩触媒(イオン性触媒)を利用して有機材料表面に作製する一方、低屈折率層としてシリカ(SiO2)層を、非イオン性触媒を利用して作製する。実際にゾルゲル法で使える非イオン性触媒を見いだしているのは世界中で村上助教授の研究グループだけという。
PET(ポリエチレンテレフタレート)などの有機材料の表面に無機材料層を作製するには、有機材料が耐えられる耐熱温度以下で薄膜形成する手法が求められている。村上助教授は、ゾルゲル法に触媒を組み合わせる新しい手法によって、チタニアを粒子状ではなく、鎖状に成長させることに成功したもの。
ゾルゲル法の原料となるチタニアアルコキシドから、150℃以下の低い温度で、緻密で高屈折率なチタニア層(アモルファス相)をつくった。屈折率は1.9以上。チタニア層が球状粒子として作製されると、粒子間の隙間に屈折率が低い空気が入り、チタニア全体の屈折率が落ちる。これに対して鎖状では隙間が少なくなり、チタニア本来の屈折率を示す。
チタニア層作製には塩触媒を用いた。ゾルゲル法の重縮合反応を遅くする塩触媒として、弱酸である酢酸と弱アルカリのアンモニア水溶液を組み合わせた塩触媒を開発した。弱酸と弱アルカリを組み合わせるのがポイントという。イオン性触媒である塩触媒をいくつも見いだしているという。
一方、低屈折率層としてシリカの多孔質層を作製した。屈折率が低い空気を内部に多く持つ多孔質のシリカ層を低温で作製するメドをつけたもの。非イオン性触媒を利用し、原料のシリカアルコキシドから低屈折率層をつくった。非イオン触媒は、ゾルゲル法の加水分解反応を遅くし、微細な多孔質体の前駆体をつくり、加水分解を遅くする作用があることが分かっている。屈折率は現在測定中。
以上のようにして、耐熱性に劣る有機材料表面に耐熱性が高い無機材料製の高屈折率/低屈折率層を作製する技術にメドをつけた。これにより有機材料系全体の耐熱性を高めることができる。また村上助教授は、非イオン性触媒を利用して無機有機のナノハイブリッド材料をつくる研究も進めているという。
この研究開発は長野・上田地域知的クラスター創成事業のうち「機能性ナノ高分子材料によるスマート情報デバイスの研究開発」プロジェクトの一環である。同プロジェクトは信州大繊維学部の谷口彬雄教授が推進している。 |