パソコン用ソフト会社「ジャストシステム」(徳島市)のワープロソフト「一太郎」を巡る特許権侵害訴訟の控訴審で、東京高裁の特別支部である知的財産高裁(知財高裁)は30日、ジャスト社による松下電器産業の特許権侵害を認めた1審・東京地裁判決(2月)を取り消し、松下の特許を無効とするジャスト社側逆転勝訴の判決を言い渡した。篠原勝美裁判長は「松下の特許は、89年の出願よりも前に外国の刊行物に記載された発明と周知の技術に基づいており、進歩性を欠き無効」と判断した。
知財高裁が裁判官5人による大合議制で言い渡した初判決。確定した場合、特許無効審判を経ていないため形式上は松下の特許権は存続するが、特許としての効果は事実上失われる。
問題とされたのは、一太郎とグラフィックソフト「花子」をインストールしたパソコンの画面上に表示される「ヘルプモード」の機能。マウスのイラストと「?」マークとを組み合わせたアイコン(絵文字)をクリックした後、実行したい機能のアイコンをクリックすると機能の内容を説明する短い文章が表示され、マニュアルを参照する必要がなくなる。
松下は、同様の機能を内蔵したワープロを発明したとして89年に特許出願し98年に登録された。昨年8月、一太郎と花子が特許権を侵害しているとして提訴し、1審は訴えを認めて両ソフトの製造・販売の中止と在庫の破棄を命じていた。【武本光政】
▽松下電器産業の話 特許無効の判断が示されたことは大変残念。今後の対応は、内容を詳細に検討したうえで決定する。
▽ジャストシステムの話 当社の主張を認めた妥当なもの。同時に、ソフトウエア関連の特許権の行使に一定の歯止めをかけた点で評価できる。
▽岡村久道・国立情報学研究所客員教授(コンピューター法)の話 ソフトウエア関連の発明を巡っては、技術が猛スピードで進む中、新規性・進歩性が疑わしいものまでが特許として登録されることがある。開発する企業にとっても、他の特許に抵触しないか文献等を探索して判断する労力が重い負担となる。判決が指摘した刊行物の内容を承知していないので断定はできないが、こうした傾向を象徴する判決と言えるだろう。