【ニューヨーク高橋弘司】「数日中に地下鉄へのテロ攻撃が行われる恐れがある」とのブルームバーグ・ニューヨーク市長の警告から一夜明けた7日、厳戒下の同市内は不審物通報を受け、ターミナル駅の閉鎖や地下鉄の一時運行停止などが相次ぎ、終日、混乱した。地下鉄利用客はいつもより少なめだったが、テロを恐れながらも「他に交通手段がない」とこれまで同様、地下鉄を利用する市民が目立った。
「手荷物を肌身離さず持っていてください。不審な包みや人物に気づいたら、ただちに通報を」。ニューヨーク・マンハッタンの中心部にあるターミナル「ペンシルベニア駅」構内に、警察の特別放送が響きわたる。同駅に発着する地下鉄内でも同様の放送が頻繁に流れ、そのたび車内にピリピリした空気が広がる。
同駅では7日朝、緑色の泡状液体が噴き出た不審な缶が見つかり、一部の出入り口が閉鎖され、防護服姿の警官が処理にあたる騒ぎになった。約2時間後、中身は危険性のないカセイソーダを使った「いたずら」らしいとわかった。
大学生のブリン・ラプジンスキーさん(20)は「テロが頭をかすめたけれど、タクシーは値段が高くて」とあきらめ顔。構内の売店員、マムール・ムハンマッドさん(32)は「いつもより利用客が少ない。きょうの売り上げは30%減だ」と嘆いた。
マンハッタンのもう一つのターミナル「グランド・セントラル駅」。銃で武装した迷彩服の州兵や警官が目立つ。観光案内の窓口係は「多くの利用客が地下鉄以外の交通手段を尋ねるので、バスを勧めている」と打ち明けた。
11歳から7歳の子供3人を連れた主婦ジナーさん(44)も「きょうは怖くて、駅まで車で来ました」と明かした。国土安全保障省などの高官がテロ警告の元になった情報は「疑わしい」として、ブルームバーグ市長の「過剰反応」を示唆した点について「4年前の同時多発テロを経験した市民に、早めに情報提供するのは当然」と市長を擁護した。
ジナーさん自身、同時テロで親友を亡くした。「あれ以来、この街からテロの脅威が消えたことはない。ニュースで脅威がとりざたされるたび、あの悲劇を思い出す。でも、私にはどうしようもないこと。生活の一部と思うしかない」と話した。
ベビーカーに赤ちゃんを乗せたマリア・キャパさん(35)はテロ警告で「ベビーカー爆弾が使われる」とされたことも気にかけない様子で、「(テロが)起こる時は起こるわ」と言い残し、地下鉄に駆け込んだ。多くのニューヨーカーはいつの間にか「テロの脅威」と共存する術を身につけたようだ。