自民党総裁選で安倍晋三官房長官の優位の構図が固まったことを受け、民主党が「安倍シフト」を敷き始めた。新政権初の国政選挙となる10月の衆院統一補選に向け準備を本格化させたほか、小沢一郎代表も安倍氏との違いを意識した発言が目立つ。
総裁選について民主党幹部は「一足先に『小沢VS安倍』の戦いが始まった」と語る。当初は総裁選への埋没を懸念していた同党だが、安倍氏優位の構図が強まり「消化試合」のムードが広がれば、来夏参院選に向けた与野党対決に関心が集まりやすいためだ。小沢氏は24日、菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長と党本部で協議し、安倍政権誕生を視野に補選準備を急ぐ方針で一致した。菅氏は27日朝、神奈川16区内の同県厚木市でさっそく街頭演説。「安倍氏は『小泉チルドレン』の筆頭みたいな人。(補選は)小泉政治の踏襲か、根本から変えていくかの戦いだ」と記者団に語った。
記者会見などでの小沢氏の発言も、外交問題を中心に安倍氏との違いが目立つ。安倍氏は北朝鮮のミサイル発射を受け、経済制裁強化や敵基地攻撃能力の保有論に言及したが、小沢氏は敵基地攻撃論を「むちゃくちゃな暴論」と批判、経済制裁強化にも慎重だ。靖国参拝問題でもA級戦犯の合祀を「間違い」と指摘し、首相参拝を肯定する安倍氏と立場を異にする。
一方で、64歳の小沢氏には51歳の安倍氏への「格上意識」ものぞく。25日の記者会見では「晋三君……いや安倍さんになったからといったって、ほとんど関係ない」と述べ、思わず「君づけ」で呼ぶ場面もあった。
小沢氏は24日の菅、鳩山両氏との協議で、現時点で安倍氏批判を先鋭化するのは得策ではない、との考えも示した。国民的人気の高い段階では批判を抑え、「鮮度」が薄れるのを待つ戦術とみられるが、チャレンジャー精神をどう打ち出すかも課題となりそうだ。【尾中香尚里、須藤孝】
毎日新聞 2006年7月27日